【店長に役立つページ】《デジタル発信、どうしてる?》

2021/07/23 06:30 更新


 コロナ禍で店頭での接客がままならなくなったこともあり、SNSやブログを使ったデジタル発信が避けては通れなくなっている。それでなくても、今どきは下調べをしてから来店するお客も多い。発信をすることで、お客の来店動機やスタッフそれぞれの顧客づくりにつながるようになってきたことは間違いない。そんな中で、様々な取り組みをしている店長さんに、どんな工夫を凝らしているのか、発信することの意味や役割を聞いた。

同世代へコーディネートを伝わる表現で

「ジェラートピケ」ルミネ新宿ルミネ2店 小笠原悠さん

商品の触り心地や質感などもわかりやすく伝えるためにしっかり特徴を捉える文章を心掛けている

 17年から店長を務める小笠原さんは、公式ECサイトでのスタイリング投稿やインスタグラムのスナップアカウントでコーディネート投稿を担当する。コロナ禍をきっかけに増えたライブ配信も2週に1本は参加しているという。

 コロナ禍を経て意識するようになったのは「更新頻度を上げることと投稿画像に付ける説明を着用感やどんな着回しが出来るかしっかり伝わる文章にすること」だ。「ジェラートピケ」では上下セットの商品も多いが、単品で購入するお客もいる。そのため単品の時はどんなアイテムと合わせたら着やすいか、1点でも可愛く着られることをアピールするようにしている。

 他ブランドやほかのスタッフと差別化するためにも「売れ筋の商品でなくても同世代の人が着やすい商品を選ぶこと」を心掛けている。スタイリングを投稿するときは商品によって髪型も変える。「デコルテが広く開いているものは髪を下ろしてセクシーに見えすぎないように、ガーリーなものは甘くなりすぎないように髪の毛を結ぶ」ようにしている。1投稿につき3パターンは必ず写真を載せて、1枚目は特にアピールしたい部分を寄りで撮ったものを選ぶ。

 昨年から参加しているライブ配信は「コメントの多い商品は店頭でも売れ行きが良かったり、商品知識がつくため表現力の勉強にもなる」という。参加することで自分のやる気も上がるし、配信で得た気づきや手応えをスタッフと共有することで、店全体の士気も高まる。ECのスタイリング投稿についてスタッフに相談されることも増えた。今後は「機会があれば、オンライン接客など来店やECでの購入に苦手意識のあるお客に寄り添う接客にも挑戦してみたい」と話す。

選ばれる店を目指してインスタにアップ

「レリアン」大丸東京店店長 吉村志乃さん

毎日、ストーリーズや百貨店のショップブログに新しい写真を上げ、目に留まるように工夫している

 同社のデジタル強化店の店長。17年春から店長を務める大丸東京店は、出張や会議のついでに仕事用の服を買う地方在住のキャリア客が多い。自店の販促の手段として上司に頼み、19年7月に店のインスタグラムを開始した。

 本格的にインスタで発信を始めたのは、1回目の緊急事態宣言解除後の昨年6月。営業再開の手紙を出しても集客は難しく、発信の手段を増やす必要があると考え、百貨店が運営するショップブログ開始と同時期に発信を強化。ブログでは毎日、新しい写真を掲載。自店のインスタと百貨店ブログ、同社のホームページの店舗発スタイリング紹介向けに、3種類の写真を午前中に撮り、アップするのが日課だ。

 インスタでは毎日、ストーリーズを上げ、なるべく物撮りだけでなく試着し、リール機能を使って裾の動きを動画で見せて変化を出すなど改善。IGTVで商品の詳細な説明動画も付け、問い合わせや予約が入るようになった。日付や着用者の身長、素材や品番も載せ、販売につなげる工夫をしている。インスタを使わない世代の顧客が多いため、使い方の説明を書いたりQRコードを張った手紙を出し、フォロワーは363人まで増えた。

 他にも外商客へのiPhoneのフェイスタイムを利用したリモート接客を提案。利用経験のない人にはアプリの入ったiPadを百貨店の外商担当が持参し、自宅で買い物を楽しんでもらって好評。自社のリモート逸品会では90万や160万円を売り上げる。「勝ち抜くには、デジタルはマスト。でもデジタルは来店促進の手段。大事なのは来た人の期待に応えられる人の力」と、人材育成にも力を注いでいる。

経験共有し出来ることは全て取り組む

「アースミュージック&エコロジー」コースカベイサイドストアーズ店 星野萌さん

色の合わせ方もこだわり、まねしやすくおしゃれに見える投稿が大事だという

 WEARの投稿で社内表彰をされたこともある星野さん。15年からスタイリング投稿をしている。昨年の6月にオープンした店ではスタッフ全員がWEARとスタッフスタートを実施し、週に2回は店舗ブログの更新もしている。

 コロナ下でのオープンとなったため、先が見えない中での準備や慣れないオペレーション対応など大変なことも多かった。新店だからこそ「やれることは全部やろう」と少しでも来店や購入につながればと考え、SNSの発信を全員ですることにした。「いろいろな店から集まったスタッフのチーム力やモチベーションにもなれば」とも考えたという。

 店舗のスタッフは4人と多くなく、写真撮影の時間を作ることが難しいことも多い。2人出勤の時はタイミングを見計らって、3人出勤の時は出来るだけ一日の勤務スケジュールの中に写真撮影の時間を組み込むようにして工夫している。スタッフは月10回、星野さんは2~3日のペースで更新している。

 3.3万人のフォロワーがいる星野さんは「WEARは、トレンド感のあるスタイリング、映えるスタイリングがビュー数が伸びやすい」と話す。WEARの機能を使って、コーディネートのフォルダを作ることもポイントだ。自店のスタッフをはじめ、インスタグラムなどで他店のスタッフからも相談や質問を受けることも多い。星野さん自身も最初は「人気の投稿を見て、何が違うかやどうしたらいいのか」を考えて取り組んでいた。

 「アップする写真を撮るために商品を着ることで良い部分や他の商品との違いがわかる。発信することはもちろん、接客にも生かせることが一番のメリット」だと話す。

個人起点で主対象に狭く濃い情報を

「ステュディオス・メンズ」原宿本店 矢部佑樹さん

「業態としての新基準を作っていくことが旗艦店の店長の役割であり使命と感じている」と矢部さん

 昨春からインスタグラムの個人アカウントでの情報発信に力を入れてきた。以前は、自店のアカウントで情報を届けることに重きを置いていたが、方針を変えた。「個人起点で狭く濃い情報を発信した方が、狙ったターゲットに刺さりやすく、熱量の高いファンも獲得しやすい」との考えからだ。コロナ下で取り組みを続けてきた結果、情報拡散力の向上に加え、新規客の来店促進や買い上げ率の上昇につながっている。

 91年生まれの矢部さんは、保険の営業マンを経て、14年に中途で入社。17年に店長に昇格した。昨春から同店の店長を務めている。中心客層は20~25歳で、主対象に情報をより伝えるためのツールとして、インスタグラムを選んだ。

 情報発信は、頻度の決まりこそ設けているものの、入荷の知らせやスタイリングなど内容は百人百様だ。ただ、取り扱っているブランド一つひとつの情報を熱量高く伝えると同時に、発信内容が重複しないよう、担当は分けている。加えて、私生活の一面など、人間性が伝わる発信も交えることで、初見の客の安心や信頼が得られるようにも心掛けている。

 個人アカウントで情報発信を強化するにあたり、インスタグラムのアルゴリズムを研究、顧客や知人のインフルエンサーからもマーケティングについて学んだ。取り扱いブランドの名前を検索した際に、矢部さんや自店の販売員が上位に表示されるように努めている。

 「ファッション消費は人起点に変わってきた。販売員を入り口に自店やブランドを知って欲しい」という。今後は各販売員が高い情報発信能力を備える必要性も感じている。「時代や顧客層の志向の変化に応じ、情報発信の手段を柔軟に変えることも必要」と考える。

《バックルーム》

 発信と一言で言っても様々な方法があるが、印象的だったのはある店長さんの「アプリによって、人気のコーディネートのテイストが違う」という話だ。アプリごとに異なる写真を撮影することは難しいが、あまり「いいね」がつかない投稿をするのはモチベーションにつながらない。それぞれのフォロワーが離れないように一つひとつのアプリの特性を見極めて、得意なスタイルに合わせて使い分けることも視野に入れるべきかもしれない。

 こういう発言が出来るのは自分自身がどのようにSNSを活用しているか、どんな投稿をするかだけでなく、フォロワーやビューワーがどんな内容に反応するか、日ごろから分析しているからこその気づきだと感じた。店舗、店長業務をしながら発信をし、分析もするのは一苦労。それでも、店のためになるならと努力している。

 「店長じゃなきゃ出来ない仕事以外はスタッフに任せる」というのも信頼関係があってこそだ。発信がマストになり、負担が増えたと思うこともあるかもしれないが、画面の向こうで投稿を楽しみにしている人もきっとたくさんいる。

(繊研新聞本紙21年6月28日付)

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