メンズ個店で新品と古着をミックスして提案する店が増えている。新品だけでは難しい、品揃えの差別化に加え、店主の個性や志向を表現する手段として効果を発揮している。また、新品ブランドは、期初に納品が集中しやすいため、期中や期末に古着を投入することで、売り場の鮮度を出す役割も果たしている。新品と古着を販売するメンズ個店に、改めて古着を販売する目的や効果を聞いた。
◇期中・期末のMDを補完する役割
フォート・ジェネラル・ストア(滋賀県草津市)
滋賀県草津市の「フォート・ジェネラル・ストア」は、40歳前後の男性を主対象に「品良く着られる大人のアメカジ」をテーマとする店だ。「ザ・ノース・フェイス・パープルレーベル」「オアスロウ」「キャプテンサンシャイン」などの新品の仕入れ商品に加え、米国と日本で買い付ける古着、オリジナルを販売する。古着は、「店主の個性を色を濃く表現する手段」であるほか、「期中・期末のMDを補完する役割も担う」と福井基記代表は言う。
16年3月の開業当初から古着を扱っている。「古着が好きだった」ことが販売を決めた大きな理由だが、「一点物の魅力があり、来店動機になるかもしれない」という思惑もあった。
年2回、米西海岸を訪れ、現地のディーラーやフリーマーケットで自ら買い付ける。好みのミリタリー物を中心に、一点物の古着のほか、縦売りが可能な1型複数点あるデッドストックを調達する。米国では普遍的かつ定番的な商材を仕入れる一方、旬や季節性、クイックな納品・販売を重視する際は、国内のディーラーも活用する。
古着の価格帯は約1万~2万円。「高額で特別感のあるビンテージ品を好む人ではなく、ファッションの一部として古着も楽しみたい人」に向けている。
80年生まれの福井さんは、ビンテージ、裏原、モードなど様々なファッションの流行を経験してきた世代。中心顧客である同世代は、「かつては古着を好んで着てきたが、ライフステージが変わり、昔のように古着をじっくり探して買う時間はない。いつも服を買う店で厳選された古着をコンパクトに見られる点が支持されている」という。
古着は新品の仕入れブランドの納品が少なくなる期中や期末に提案を強化している。売り場の鮮度の維持・向上に貢献しているほか、まとまった売り上げを作ることに成功している。現在、年間売り上げの約3割を古着が占める。
近年、古着を扱うメンズ個店が増えているほか、買い付けられる古着の数が減ってきているため、オリジナルに力を入れる。買い付け時にビンテージ・デッドストックの生地も購入し、日本で製品化、販売する動きを強めている。
◇宝探し的ワクワク感、来店のきっかけに
べシックス(東京・中目黒)
東京・中目黒のメンズセレクトショップ「べシックス」は16年8月の立ち上げ時から古着を扱い続けている。「新品の仕入れブランドに古着をミックスすることで店の個性を表現することが当初の目的だった。それとは別にブランド目的以外の来店のきっかけも作りたかった」と角地俊耶代表。そのため、店頭での宝探し的ワクワク感があり、安いことが前提となる。スタイリング提案する際も、新品(3万円)を2点よりも古着(3000円)をミックスした方がセット率が高まる。若い世代の顧客の古着に対する意識も大きく変わり、ビンテージへのこだわりは全くない。
古着の仕入れは「自ら米国カリフォルニアまで買い付け(年2回)に訪れ、自分の基準で厳選することが大事」と強調する。古着にはマスターピース(原型)が多いため、ベーシックを基本に品揃えする同店には欠かせない。店頭ではセレクトした新品と合うモダンさを重視しており、プレスをかけたきれいな状態で並べている。今後、古着はアニメや映画のプリントTを集積するなどメッセージ性やコンセプトをもっと明確にして期間限定的に販売していく。
少し前から古着ミックスの業態が増え、新鮮味がなくなってきたため、古着のリメイクでオリジナルブランド「IDインダストリア」を開発した。オリジナルは自分で買い付けた古着を業務提携するパタンナーや丸縫い職人とともに作り上げる。既存の市場に多いカジュアルではなくドレス寄りのきれいな仕上げが特徴。19年秋冬はトラッドブランドのジャケットをビッグシルエットに再編集(4万8000円)した。今春はシャツ地による上品なハンティングベスト(2万円)を販売している。
◇服好きな客が新品と組み合わせ楽しむ
カムズ・ザ・サン(京都市)
京都市にある男女向けセレクトショップ「カムズ・ザ・サン」は、「バトナー」「グラフペーパー」「フィータ」などを品揃えする一方、欧州のデッドストックやビンテージも提案している。こうした古着は店のスパイスとして活用しているが、「服が好き、ファッション感度が高いなど、来店してほしい客層の集客効果がある」(木本大介代表)と振り返る。
同店は17年9月にメンズ店としてオープンした時から古着をミックスしている。「新しさや早さのある店作り」を目指し、物作りと感性の光るブランドをセレクトするだけでなく、こうしたブランドと一緒に提案してもバランスの崩れない良質なデッドストックを組み合わせる店作りをした。
19年9月にレディスの提案もスタート。フィータや「ジュン・ミカミ」などを扱うが、こちらもビンテージをミックスして提案している。
古着は欧州のデッドストックが中心。スウェーデン軍のM59コートなどミリタリー系のアイテムをはじめとした提案が多い。19~20年秋冬は80~90年代の「バブアー」のアウターのビンテージが予想以上に好評だった。オーバーサイズでの提案が受けた。「リーバイス」の505のユーズドのうち、コーンミルズ社のホワイトオーク工場で生産したデニムを使用したものだけに絞って販売するなど、時には欧州以外の古着も提案している。
古着の調達は国内ディーラー数社から仕入れる。ディーラーと密に連絡を取り、随時入荷している。質の良いデッドストックなどは手に入りにくいので、シーズン初めに計画的に仕入れるというよりは、不定期で入荷するケースが多い。
古着の売り上げ比率は2割以上。「メンズ、レディスともにビンテージミックスの提案は反応が良い」。期待通り服好きな客層が訪れ、セレクトしたブランドと古着を見て、ミックスコーディネートを楽しんでいる。気になるブランド(新品)目当てで来店した人も、古着を楽しむなど、店として客単価アップにつながっている。