【専門店】レディス専門店で進むEC活用 店とのハイブリッド加速

2020/07/13 06:28 更新


 3月から5月にかけて新型コロナウイルス感染拡大防止で多くの専門店が営業自粛を迫られ、実店舗での収入激減を強いられた。減収カバーに効果を示したのがネットショップだ。これまであまり進んでいなかったネットショップ活用だが、実店舗の営業自粛を機に参入が増え、ECを手掛けたことで、今春夏の売り上げ増が見込める店も出てきた。

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◇ECで顧客との距離縮める

リトルハピネス(東京都品川区)

 欧州で買い付けた婦人服主力のリトルハピネスは昨年10月の消費増税の影響で12月まで客数が減少したことの対策として12月初旬からネットショップ作成サービス「BASE」を利用したネットショップの運営を始めていた。4月2日から5月7日まで実店舗を休業したが、4月のEC売り上げは前月の6倍にまで伸長した。ネットショップは新規客獲得の狙いがあったが主に顧客の購入で、4月は例年、春物販売に注力していたことに加え、実店舗休業を強いられていることへの同情買いも少なからずあったという。

 ネットショップはインスタグラム投稿とひも付け、購買の手間を少なくする工夫がされている。インスタグラムは商品をボディーに着せた画像だったが、自粛期間中は人が着用する画像に変え、1分間の動画と組み合わせて一つの投稿とした。同店はECで簡単に買える価格帯ではないと見て、写真のイメージやコーディネートで差別化することがカギとなっている。

 同店に信頼を置く顧客はネットだけの客と違い、ネットでもまとめ買いや高価格も購買する感触を得ている。顧客が購買に迷いを生じたときの相談は実際の来店時より具体的なものが多く、さらに丁寧な商品の特徴説明や迷わせないアドバイスに留意している。

 大野敦史代表はECをしていることで、自店舗休業中でも顧客からの気軽な質問や問い合わせがあることに喜びを感じている。「この体験をより多くと共有し、楽しみたい」としている。今後はメッセンジャー機能を使った〝リモートリトルハピネス〟(リモハピ)のサービスを始める。既存顧客も新規客にも、もっと気軽に洋服について問い合わせしやすくし、信頼できる店として存在価値を高めたいとしている。

リトルハピネスのHP。コーディネートをクリックすると、多彩な角度のカットと詳しい商品説明のページに飛ぶ

◇在庫持てるのも実店舗のおかげ

ブルーコムブルー(富山県高岡市)

 レディスセレクトのブルーコムブルー(富山県高岡市)はコロナ禍で、4月17日~5月6日まで実店舗5店を休業。営業再開後も時短営業などで売り上げに影響があるが、ネット販売が前年比約80%増と好調で、全社売り上げをカバーしている。

 同社はリアル店とネットの「ハイブリッド経営」を実践、これまではネットとリアルの事業部を分けてそれぞれが行っていた。今回、休業中のショップスタッフによるインスタライブ、オンライン上で接客のような商品説明やコーディネート提案が加わったことなどが好調の背景にある。

 今後は明確な事業部制ではなく、実店舗のEC化に取り組んでいく考えだ。

 実店舗では客の購買動向の変化に加え「もともとオーバーストア傾向で競争は厳しく、急激なV字回復は望めない」と見ている。

 だが「在庫が持てるのも実店舗があるからで、お客様とのコミュニケーションなどリアル店舗は重要」と、オンライン販売に重点は置かないとしている。

リアル店とネットの「ハイブリッド経営」を実践するブルーコムブルー

◇高齢顧客にも工夫次第で通用

えがお洋品店(東京都豊島区)

 シニア向けセレクトショップのえがお洋品店(東京都豊島区)は実店舗への来店を重視しECは二の足を踏んでいた。だが営業自粛中は無収入となるため、「試し」にネットショップを始めた。BASEマガジンでブログが取り上げられたこともあり、売り上げが意外に早く立ち、シニア以外での広がりを見せた。シニア層は本や日用雑貨ではEC活用していることから「ECに抵抗があるというより、ECで服を買うことにまだ抵抗はある」(太田明良代表)と見る。

 今後はシニア世代へEC訴求を強める。若年層とは違った提案の必要を感じ、写真では伝わらない素材感や着用感を動画で紹介したいと考えている。またコーディネート提案ページにも注力する。実店舗では「このコーディネートください」と言うのは恥ずかしく思う人も多いが、ネット上だとハードルが下がるからだ。太田代表は「実店舗は自己探求を満たす消費、ECは自己欲求を満たす消費」と位置づけ、これを基に売り場づくりを進めている。

えがお洋品店は、実店舗同様にECでもシニアへの訴求を強める

◇IT、アナログ表現の両方必要

パーマネントエイジ(兵庫県西宮市)

 メンズ・レディスのセレクトショップのパーマネントエイジ(兵庫県西宮市)は10年以上前からネットショップに取り組み、ECと実店舗の相互送客も早くから実現しているが緊急事態宣言下で実店舗の休業を強いられ、今も営業時間短縮を続けている。3~5月のEC売り上げは前年同期比でほぼ倍増。ネットショップ歴は長いが「これほど伸びるのか」と林行雄代表は驚きを隠せず、商品をもっと準備しておけばもっと売れたと見る。

 顧客は50~60代も多い。ショッピングサイトの商品は、自社オリジナルのリピート率の高いベーシックなものが多い。定番として「変わらないものを常に提供していることをきちんと見せてきた」ことが、社会に不安が蔓延(まんえん)していた時期だけに安心感をさらに与えた。

 50~60代の顧客はたくましくITもこなす一方、封書や手作り感のある語り調のチラシなどの反響もまだ大きい。コロナ禍での顧客とのコミュニケーションではIT、アナログ表現の両方が必要であることを再認識し、改めて学ばされたという。今後は実店舗を訪れるイメージは静止画像では与えられないと考え、動画の導入も模索している。

 林代表はECが急成長する時代に、もやもやした気持ちで店舗の在り方を模索していたが、自社ECの売り上げ変化に小売りの手法はまだまだあると確信した。「実力のある実店舗がきちんとECをやれば、これまでのように人通りの多い立地でなくとも可能性が広がる。利便性や売り場面積拡大で進んできたファッションアパレルは転機となった」とも感じている。

パーマネントエイジのショップページはリピートしたい服がいつもあるという安心感を与える

(繊研新聞本紙20年6月25日付)



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