才能溢れるシェフ「タナカアツシ」氏が、ボルドーのパイオニア的存在、篠原麗雄氏たちのサポートのもと、この度フレンチレストラン「A.T」をオープンさせた。
向かって右から2番目が「タナカアツシ」シェフ
4月8日のオープン初日に、前述の篠原氏のお招きで、早速行って参りました。今「A.T」に行きたい3つの理由を探るために。その理由とは…
その1.純粋に美味しいから
シェフ自身の頭文字がレストラン名になるだけの事はあり、まさに渾身の自信作といったところであろう。初日だというのに、その完成度は極めて高く、随所に彼のこだわりが具現化されている。全10品からなるコース料理は創造性に溢れ、味覚はもちろんのこと、盛り付けやサービスの仕方で視覚的にも楽しませてくれる。
特筆すべきは、シェフの絶対音感ならぬ、絶対調味感覚。近年流行のフュージョン料理は、様々な食文化の融合をコンセプトに、一見奇をてらったかのような調味料や食材、調理方法で、アヴァンギャルド過ぎる味わいを提供していた。しかし彼の手に掛かれば、それらは単なる融合ではなく、調和を生み出しフランス料理を逸脱しない至高の一品へ昇華される。
その2:予約が取れるうちに
オープンしたばかりのレストランは、調理時間やサービス対応など、様々に準備が必要である。それゆえ、スロースタートを心掛け、過剰な宣伝や、過剰なアピールはなるべく避けたほうが望ましい。
4月8日にオープンした「A.T」も多分に漏れず、一部の知る人ぞ知るの期間を設けている。この時期にこそ、予約が取りやすく、落ち着いて食事を堪能できるのだ。
その3:評価が上がる前に
シェフ「タナカアツシ」の料理を天才的だ、と評するフェイスブック記事を多数拝見する。そして実際に食してみて、いささかの迷いも無く肯ける。いずれ近い将来、必ず評価を受けるであろうし、ミシュランの星も十分に勝ち取れるだろう。
そうなれば、予約は取り難くなるだろうし、星や評価に比例してメニューの金額を上げざるを得なくなる。現在、お昼が45ユーロ、夜が85ユーロであるが、決して高い値段設定ではない。将来の星付きレストランを斯様な金額で食せれば、間違いなくお得である。
「フレンチレストランには必ず一人は日本人がいる」。
日本人の料理人達はフランスの美食文化に貢献しているという褒め言葉である。彼らの勤勉さは、一級レストランを含む様々なレストランの縁の下の力持ちとなっている。フランスのモード業界でも同じような事が言え、日本人パタンナーはその精確さを認められ、いろいろなアトリエに招かれている。
しかし、近年、彼ら自らが主役となり、フレンチ料理界に新たな時代を創り始めている。数年前から、日本人主体のフレンチレストランがオープンし始め、お家元のフランスにて、飛ぶ鳥を落とすが如く、ミシュランの星や料理ガイドブックなどの賞を獲得している。かつて、影の存在に甘んじていた日本人の才能が、世界の注目を集めているのだ。
Restaurant A.T
4 Rue Cardinal Lemoine 75005 Paris
+33(0)1 56 81 94 08
のむら・しんじ フランス・パリ、日本にて、複数会社を経営する事業家。今年スタートした、フランス政府認可のワイン雑誌「33VIN」を皮切りに、食文化へのビジネスを展開中。パリコレ期間中は繊研新聞社の手となり足となりTHE SENKENパリ・オーガナイザーとしても活動。本人も何が本職かわからないほど、多方面で絶賛活躍中!