【記者の読書感想文】専門紙の記者がお薦めの本を紹介

2020/09/12 06:27 更新


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【センケンコミュニティー】夏休み!記者の読書感想文 専門紙の記者がお薦めの本を紹介

 いつもより家で過ごすことが増えそうな今年の夏休み、読書にふける時間はいかがでしょうか。専門紙の記者として担当分野に関する本を読む機会が多いメンバーが、お薦めの本を紹介します。

(繊研新聞本紙20年8月7日付)

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◆劇薬か、良薬かは読み手次第

『生き残るアパレル 死ぬアパレル』(河合拓著/ダイヤモンド社)


 ファッションビジネス業界でも近年、コンサルタントとの契約が増えている。記者が担当している「繊研教室」でも多くの方に執筆をお願いしており、掲載されると「話を聞きたい」「契約したい」といった要望が数多く寄せられるそうだ。相談はEC構築やデジタル化、海外市場開拓まで幅広く、文字通りの経営再建や構造改革など一刻を争う深刻なものも多い。

 一口にコンサルと言っても、特定分野の経験者もいれば、世界的な大手コンサルティング企業まで様々。ただ、アパレル企業にその効果を聞くと、特殊な業界であるためか、部分的、あるいは一時的な改善は進んでも、本格的な再生や再建までは手に負えないことが多い。ひどい場合には、コンサルが現場を混乱させ、経営悪化を深刻化させるようなケースまである。

 そんな状況下で、業界に特化し、現場に入って経営者や社員と一緒に汗を流し、成果を挙げてきた戦略コンサルの第一人者が、この本の著者である河合氏だ。これまで数多くの企業再生を手掛け、その経験から、現在は業界全体の課題解決へとステージを変えつつある。今回出版された『生き残るアパレル 死ぬアパレル』はまさにその処方箋(しょほうせん)であり、河合氏の論考の集大成とも言えるだろう。

 さて、業界最大の問題であり、タイトルでもある「生き残る」か「死ぬ」かの分かれ道は「余剰在庫」にある。ここまでは誰もが分かる話だ。しかし、長年にわたって問題が先送りされ、事態は深刻さを増している。その単純なメカニズムを明らかにしているが、解決は「産業構造上極めて難しい」としている。いくつかの勝ちパターンも例示しているが、本当の解決策はそこにはない。

 また、副題は「ZARA、ユニクロ圧勝の秘密を明かす」だが、ビジネスモデルを単純にまねることを推奨しているわけでもない。例えば、多くの企業でデジタル化が進まない背景に「複雑すぎるバリューチェーン」の存在を指摘。その効率化なしに、まねをしてもうまく進まないと指摘する。

 では、どうすればいいのか? この業界で働く方であれば、誰もが思う疑問だろう。河合氏はその答えを導き出すための道筋も用意はしているが、ネタばらしはしない。自らのビジネスと照らし合わせ、真摯(しんし)に向き合うことで「劇薬」にもなれば「良薬」にもなる1冊である。

◆服作りへの真摯な姿勢に共感

『モデリストが綴る深イイ話』(柴山登光著/アパレル工業新聞社)


 デジタルでの情報収集が大半を占めるようになっても、本を出版する業界人は意外と多い。私も取材した人が自ら書かれた本を頂くこともあり、10冊以上が自宅の本棚に並んでいる。今回、読んだ本『モデリストが綴(つづ)る深イイ話』(アパレル工業新聞社)の著者、柴山登光氏(サン・モードスタジオ代表)は10年以上前から取材でお世話になっている紳士服作りの大重鎮。昨年11月には厚生労働大臣が表彰する「現代の名工」に紳士既製服仕立工として初めて選ばれた人なのだ。

 今年2月に取材した際、頂いた同著は04年以降、15年間にわたり、自社のホームページ(毎月)や業界団体の機関紙などに柴山氏が書きためてきた約130のコラムをまとめたもの。①オーダーの流れ②道具・こだわり③ディテール④デザイン(ジャケット)⑤デザイン(コート・他)⑥その他、にカテゴリー分けされており、1項目が2ページ弱と読みやすいのが特徴。目次を見ると、紳士服作りの専門用語などが項目ごとに振り分けられており、辞書のような使い方もでき、メンズ分野担当の記者としても非常に勉強になる。例えば、「モデリスト」とは、「デザイナー・企画の意図するところをパターンに表現し、コストに見合った仕様を考えられる人。次に裁断・縫製・仕上げのポイントを指示でき、問題点をどうすれば改善するかを的確に言え、かつ実現させることができる技術者」とある。

 数年前には柴山氏が理事を務めるIACDE(国際衣服デザイナー協会&エグゼクティブ)の「3つ星工場認定」企画で地方の縫製工場まで同行取材したことがある。その時に感じた服作りの現場に対する真摯(しんし)な姿勢と優しいまなざしが、この本にぎっしり詰め込まれている。

◆「思い切り」の原点と合理性を学ぶ

『社員をサーフィンに行かせよう』(イヴォン・シュイナード著/ダイヤモンド社)・『スポーツ立国論』(安田秀一著/東洋経済新報社)


 スポーツ・アウトドア担当の記者が、夏休みの読書にぜひお勧めしたいのはこの2冊。

 1冊目は、パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナード氏が著した『社員をサーフィンに行かせよう』(ダイヤモンド社)。もともと社員に自社の理念を示す手引書として05年に同名の回顧録(邦訳は07年)を出したもので、その増補改訂版(17年発行)だ。

 環境保護活動の旗手として知られる同社だが、始まりはロッククライミングギアを作る1企業だったことをご存じだろうか。パタゴニアの前身、シュイナード・イクイップメントは設立後、その機能性の高さからすぐに人気となり、1970年には米国最大のクライミング用具メーカーとなった。ところが、主力商品のピトン(クライミング時に岩壁の割れ目に打ち込む金属製のくさび)が愛する岩壁を痛めていることに気付くと、シュイナード氏はその事業をあっさりやめてしまう。この決断こそが、パタゴニアが「長年にわたる環境配慮の道を歩きはじめた瞬間」となった。

 パタゴニアと言えば、業界でいち早く綿製品をオーガニック原料へ切り替えたり、ブラックフライデーの売り上げ全額を環境保護団体へ寄付したりと、環境・社会問題に警鐘を鳴らす思い切った施策が反響を呼ぶ。この本を読むと、こうした行動の原点は、創成期のシュイナード氏の決断にあったと知ることができる。

 2冊目は、スポーツ用品メーカー、ドームの安田秀一代表取締役CEO(最高経営責任者)が書いた『スポーツ立国論』(東洋経済新報社)。スポーツが巨大産業化したアメリカで進められた五つの改革(スタジアム・アリーナ改革、リーグ・団体改革、大学改革、女性スポーツ改革、メディア改革)を紹介し、スポーツを通じ日本社会と経済、そして日本人を強くするアイデアを提示する。競技団体などで見られる合理性を伴わない意思決定やガバナンス上の欠陥も指摘しているが、これは硬直化した企業・組織によく見られること。そのため、スポーツに関係のない業界で働くビジネスパーソンにも共感できるところが多い。

◆ビンテージ古着愛好家は必読!?

『5536・ディープ・インサイド・オブ・ネイビー・ブルー』(寺本欣児著/サーティーファイブサマーズ)


 ファッションに興味を持つようになってから、パンツやニット、シャツ、スニーカーなど、買い揃える物といえば大抵が紺色か青色だ。男性のなかには身に覚えのある方も多いのではないだろうか。そんなメンズカジュアル分野を担当する記者が、今回の〝読書感想文〟を書くにあたって手にした本もまた紺や青に関連したものだった。

 紹介するのは、「ロッキーマウンテンフェザーベッド」「アナトミカ」などを販売するサーティーファイブサマーズが、19年12月に発行した『5536・ディープ・インサイド・オブ・ネイビー・ブルー』。著者は、同社の代表であり、ビンテージコレクターとしても知られる寺本欣児氏。

 同氏が30年以上にわたって収集してきたコレクションのなかから、面白みのあるものを厳選し、紹介するという内容。ビンテージのミリタリー、マリン、スポーツウェアなど約50点が写真とともに掲載されている。生地の組成や付属品の仕様なども細かく解説されており、当時の仕様書やカタログなども載っているため、とても勉強になる。最初に紹介されている米国海軍のレーヨン・コットンジャケットは、生地の見本も添付されており、「こんな生地が使われているのか」と触覚でも楽しめる。

 約8年の歳月を費やして完成した一冊だという。本書の後書きには、「手元には未掲載のアイテムがまだたくさんある」「次なる著書でお披露目したい」という記述がある。続編?が何年後になるかは分からないが、期待を膨らませつつ、続編を気長に待ちたいと思う。

◆基礎から開発ストーリーまで

『学研まんがでよくわかるシリーズ・ファスナーのひみつ』(学研パブリッシング)


 入社以来ずっと百貨店やショッピングセンターを取材していた記者が服飾副資材担当になり、右も左も分からないなかでアパレルパーツの魅力と奥深さを教えてくれたのが、YKKが全面協力した『学研まんがでよくわかるシリーズ・ファスナーのひみつ』(学研パブリッシング)だ。

 サッカーの練習試合で負けてやけになったユウキはバッグのファスナーを開けたまま振り回し、はずみで中のものが全部飛び出してしまうところから話は始まる。ひょんなことからファスナー工場に見学の旅に出る…というストーリーだ。ファスナーの構造からできるまでの過程、進化の歴史もコミカルに描かれている。

 最も興味深く読んだのは第4章「新しいファスナーができるまで」だ。日常生活のどこにでもビジネスのヒントが落ちていることを実感させてくれる。

 たとえば形状保持ファスナーは、テープ部分に樹脂製の芯材を織り込むことで、自由に曲げたり変形させることが出来るものだが、開発のヒントになったのは「山登り」と「マスク」だという。

 商品開発チームが山登りに行った際に、汗でジャケットの中が蒸れ、空気を入れ替えるためベンチレーションが広く開いた状態を保てるファスナーを思いついた。テープに芯を入れるところにたどり着いたが、針金のような金属だとテープから飛び出したときに怪我をする危険もある…。行き詰まっていた時に、風邪気味の社員が着用していたマスクを見てピンとくる。マスクに使われている芯はやわらかくて丈夫で、形も自由に変えられる。それをヒントに、社内のあらゆる部署が連携して製品化を実現したという。

 児童向けの書籍ではあるが、「このファスナー、アパレルパーツはなぜ開発されたんだろう?」。新しい商品に出会う度に、そう思わせてくれる1冊になった。

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