《販売最前線》西武池袋本店の「パーソナルオーダー」

2018/09/24 06:29 更新


《販売最前線》西武池袋本店の「パーソナルオーダー」 「自分仕様の特別感」への要望に応える 顧客の新たなニーズを探る拠点に

 そごう・西武はオーダーメイドとカスタマイズに特化した売り場「パーソナルオーダー」を立ち上げた。西武池袋本店、そごう千葉店に4月開設し、6月から本格化した。「フィット感と自分仕様の特別感を求めるニーズが強まっている」という市場性に着目するとともに、顧客の潜在ニーズをつかむ拠点として活用するのが狙い。顧客の様々な要望を通して、新たな〝気付き〟につなげる。

(松浦治)

婦人フロアにオープン型工房

 西武池袋本店のパーソナルオーダーは4階婦人服のエスカレーター前の一等地にある。まず目の前に現れるのが島精機製作所の無縫製横編み機「ホールガーメント」だ。さらに売り場に沿って通路を進むとホープインターナショナルワークスが運営するリフォーム、リメイクのオープン型工房がある。NBやデザイナーブランドなど既製服が並ぶフロアにあって、ライブ感覚で物作りの雰囲気を感じることができる唯一の売り場となる。女性客にまじって工房の前で足を止めて縫製などの作業を見つめる男性客が少なくない。

売り場の正面に「ホールガーメント」を置く

 ホールガーメントによるニットのセミオーダーは海島綿やカシミヤ・シルクで、色、襟、着丈、袖、サイズから好みを選ぶ。売り場内に個室を併設しており、画面上のバーチャルフィッティングでデザインや色柄を決めることができる。綿100%で、1万6200円から。タグに名前を刺繍で入れて、「私だけ」のニーズに対応する。西武池袋本店のホールガーメントはネクタイや帽子、手袋などに対応した小型機であることから、セーターは大型機を導入するそごう千葉店で製品化する。ホールガーメントの操作は、研修で専門的な知識と技術を身に着けたそごう・西武の社員が製品化まで一貫して手掛ける。

「ホールガーメント」によるニットのセミオーダー「ワタシ・メイド」
リフォーム、リメイクの工房を設置

 ニットだけでなく、シャツでフレックスジャパン、プリントスカート、パンツでセーレンなどと協業し、取引先のリソースを活用することでセミオーダーに対応する。

売り場の性格が一目で分かる

 パーソナルオーダーは4月にスタートしたが、客数が想定を下回った。「何の売り場なのか分かりにくかった。一方でメンズ、キッズの要望が想定以上に多かった」(平井一也西武池袋本店店舗戦略部長)。これらの反応を元に、仮設から本設に切り替えた6月のリスタートで見直した。

 最大の改善点は分かりやすさ。顧客の目線が集まるホールガーメントや工房の前の看板には、売り場名とともに、オーダー、セミオーダー、リフォーム、リメイクの4領域とレディス、メンズ、キッズ、ペットの4分野の文字を明記した。さらに入り口のデジタルサイネージを使ってセミオーダーなどの仕組みや流れを映像で紹介するようにし、売り場の性格を一目で分かるようにした。長時間のやりとりで顧客が苦痛にならないように、椅子とテーブルを一新した。1日当たりの売り上げは6月以降、2倍に増えた。売り上げに占める構成はリフォーム5割、リメイク・オーダー3割、セミオーダー2割となっている。

 課題はセミオーダーの底上げだ。女性は男性に比べてオーダー体験が少ない。「オーダーに慣れていないこともあって、なかなか決まらない。しかし、着心地を実感してリピーターになれば楽しみながらデザイン、色柄を選ぶお客様がほとんど」(石井真理子西武池袋本店販売係長)という。接客を通じて、あったらいいをサービスに加えながら、メニューを増やす考えだ。「今欲しい」というニーズもその一つで、注文から引き渡しまで1週間かかるリードタイムの短縮などに向き合う。

専任スタッフが顧客のイメージを形にする

思い出や絆作りをサポート

 パーソナルオーダー売り場が力を入れるのは、単にモノを売るだけでなく、顧客の思い出や絆作り、ソリューションをサポートすることで、新たな来店動機を生み出すことにある。

 同売り場のスタート以降、顧客から様々な相談、要望が持ち込まれている。「母の日に贈りたいので、家で飼っているインコを刺繍で再現して欲しい」「週末のゴルフコンペ用に買ったパンツにイニシャルを入れたい」「母親の形見の帯をバッグにして常に使い続けたい」などはその一例だ。売り上げに占める外商顧客の買い上げは3割に達しており、市場の成長性に手応えを感じている。

「名入れやワンポイントの刺繍は幼稚園のママ友による口コミでの来店が少なくない」と話す石井販売係長
写真をデジタル刺繍したワッペン、刺繍

 「今までのやり方は全く通用しない。お客様に寄り添うことを通して、パーソナルオーダーを情報の受発信拠点としてPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回す」(林拓二そごう・西武社長)と新しい買い方や購買行動を顕在化させて、変化に対応する。

 パーソナルオーダーは西武池袋本店の売り場面積が100平方メートル、カフェを併設するそごう千葉店が330平方メートル。18年度中に池袋、千葉に続いて、横浜、大宮、広島、所沢の店舗にも導入する予定だ。採寸にはIoT(モノのインターネット)メジャーを導入し、計測データはショップと共有して顧客の利便性を高める。実証実験を重ねて改良し、本格導入に結び付ける。

(繊研新聞本紙8月24日付けから)



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