楽天ファッション・ウィーク東京22年春夏は、未来を見据えたショーやプレゼンテーションが相次いだ。持続可能性を感じさせる物作りへの姿勢やテーマを掲げたクリエイションが広がっている。
(写真=ベッドフォード、ディーベックは加茂ヒロユキ、ノブユキマツイ、リュウノスケオカザキは堀内智博、他はブランド提供)
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〈フィジカル〉
ベッドフォード(山岸慎平)は、夜の庭園の落ち着いた空気の中、新作を披露した。ラメストライプのGジャンやコート、ラメ入りフラワージャカードのブルゾン、チューリップハットにブーツカットジーンズ、レトロな70年代のムードが入り混じる。ベッドフォードらしい艶っぽさは健在だが、春夏はそこに無国籍なムードが加えられている。蚊帳のような透け感のコートは、淡い色がのせられ幻想的な雰囲気を醸し出す。前合わせが浅いダブルブレストのジャケットは、ピークトラペルとボタンの配置ゆえかオーガスト・ザンダーの写真の紳士たちを思い出させる。テーラードジャケットと組み合わせるのは、緩やかに流れるラップスカート。そんなスタイルが、年代も地域もジェンダーからも自由なノマドの香りとなって漂う。服と共地の布で作った一輪の花をボタンから飾るなど、アイコニックなディテールも面白い。プロダクトクオリティーとしては未熟に思えるアイテムもいくつかはあるのだが、ベッドフォード独自の立ち位置やブランディングが際立ち始めた。
ノブユキマツイ(松井信之)は、東京・浅草橋のアトリエで小さなショーを開いた。「スルー・ザ・カーテン」をテーマに、カーテン越しに感じる日差しの心地よさやカーテンのあいまいさを着想源にした。会場の天井には型紙やカーテンの切れ端が揺れ、服をのぞき込むようにして見せる演出。そこに登場したのはテーラーリングを軸にしたメンズとウィメンズ。インサイドアウトや切りっ放しのディテール、レースの透け感を組み合わせてテーラードスタイルに変化を作る。ジレは解体して、半身のアシンメトリーなジレに。インサイドアウトのパンツは、モデルの動きとともにブランドロゴのタイポグラフィーが透けるように浮かび上がる。きれいなカットのテーラードを作ってはいるが、一度、テーラーリングを突き放してデザインを考えた方が良いのかもしれない。かつてのエアパッキンを使ったコレクションに比べると、テーラーリングに固執しすぎているように感じられた。
(小笠原拓郎)
ディーベック(ディーベックデザインチーム)は、ブルーの舞台が光るインダストリアルな空間で、ユーティリティーウェア、ギア、都会的なワードローブをクロスオーバーさせる着こなしを見せた。テーマは「フュージョン」。ディーベックらしい機能軸のアウターに、曲線のカッティングと空気をはらむシルエットを加え、強くてしなやかな線を際立たせる。女性のモデルが着用するのは、丸みを帯びたラインで切り替えたドレスにハーネスのようなフォルムのギア。スポーティーなアウタージャケットの下にはドレープが連なるカシュクール風のジャージードレス。同じアイテムを、男性モデルはロング丈カーディガンとしてパンツに重ねて着用する。ジェンダーフリーで型にはまらない、強い意志と柔軟性ある生き方を感じさせるコレクション。
今年3月に大学院を修了し、初のショーを行ったリュウノスケオカザキ(岡崎龍之祐)は、祈りをテーマにプリミティブで造形性に富んだドレスのコレクション「000」を見せた。広島に生まれた岡崎は、東京芸術大学デザイン科の在学中から平和の祈りをテーマに制作を続けるなかで、人と祈りの関係の奥深さに気付き、その歴史の中で生み出された造形を創作源としてきた。例えば、弧を描くフォルム、うねりをなすモチーフが連なったシンメトリックなドレスは、縄文土器をインスピレーションにしている。自然に対峙(たいじ)し、生きることへの祈りが込められた土器の造形が、軽やかなジャージーのテンションを生かした曲線、しなやかに伸縮するリブニットの曲線に置き換えられる。混沌(こんとん)とした今の時代を生き抜く強さを感じさせた。
(須田渉美)
〈デジタル〉
初参加のネイプ(山下達磨)は、ストリートムードのワードローブを軸に、現代社会のジレンマに向き合う姿勢を問いかける映像を配信。森の中に捨てられたごみの山から始まり、倉庫のような空間でモデルたちは、何かを自問しているように身体表現する。そこで訴えかけるのは、都市ゴミのプリント柄だ。高機能素材を使ったモッズコート、オールインワン、開襟シャツとハーフパンツのセットアップなど様々なアイテムを揃えた。16年にブランドを始めた当初から「捨てる生地を極力減らせるよう、取り都合を考えてパターンを作ってきた」と山下。直線的なラインが強調されて見えるが、タックやプリーツを生かし、着用すると丸みのあるフォルムや着心地の良い緩みのある形に仕上げている。
モロッコをイメージソースにしたエフシーイー(山根敏史、山根麻美)は、先住民ベルベル人の遊牧民の慣習を反映し、グラフィックで表現した世界を、男女のモデルがさすらうムービーで配信した。テーマは「儚(はかな)さ」。砂漠に始まり、イスラム文化を感じさせる建築やじゅうたんなどの映像と音楽がアップテンポで流れていく。タイルの模様をプリントしたパンツに、ボーダー柄のプルオーバー、半袖のスウェットを重ね着する。何気ないストリートの着こなしだが、遊牧民のシンプルな装いを感じさせる直線的なシルエットだ。赤・オレンジの強い色彩の格子柄シャツに機能的なポケットの付いたワークジャケット。特徴ある色柄を差し、都市生活を身軽に過ごすスタイルを見せた。
チョノ(中園わたる)は、昨年10月に続く2度目のデジタル配信。すりガラスのような演出で時の移ろいを感じさせる映像とともに、多色の花びらがちりばめられたプリント柄のドレスなどレディーライクなワードローブを見せた。女性らしい胸元のラインを作るタック、半袖トップのドレープした裾のライン。国内産地で作ったテキスタイルの繊細さとともに、きちんとした作りを体感できるイメージ―ムービーに仕上げている。
(須田渉美)
メンズのシセ(松井征心)が配信したのは、紙に色がじんわりと広がっていく様子。黒と白、ブルーやグリーンのトーン・オン・トーンが滑らかに重なっていく。テーマは「ドローイング」。ルックも黒白やニュートラルカラーが繊細に重なる。丁寧に解体して再構築したテーラーリングは、パーツの重なりが陰影を描く。これまでのシンプルなイメージとはひと味違う柔らかさがある。メンズだが女性モデルを起用してほんのり優しいユニセックスなムードを醸し出している。
(青木規子)