楽天ファッション・ウィーク東京22年春夏は、物作りの本質に向き合う姿勢が強まった。ジェンダーフリーな表現も目立っているが、メンズを軸とするブランドの多くは、女性モデルを起用したり、レディスウェアのデザインや素材を取り入れたりと、視点を変えた見せ方でブランドの魅力を広げようとしている。
〈フィジカル〉
ホワイトマウンテニアリング(相澤陽介)は大都会東京の憩いの森、新宿御苑を舞台に無観客でのショーを開き、「by R」によりライブストリーミング配信した。森の小道に並べられた小さな椅子が無観客のショーのはかなさを感じさせる。とはいえ、美しい緑に囲まれた伸びやかな空間で見せるショーは、また未来への希望もはらんでいる。22年春夏パリ・メンズコレクションで見せたデジタル配信のメンズに続き、今回はレディスだけに絞ったショーだ。
新作は黒がメインカラー。そこに相澤らしい機能性を強調したアイテムを重ねていく。フーディーやハイネックトップ、スリーブレスベスト、機能的なアイテムをブラトップやミドリフトップと重ねることで軽やかで健康的なセクシーさを強調する。ダブルジップでフォルムを変えて様々なレイヤードを見せ、マルチポケットやストリングスで機能美をアピールする。ボトムはカーゴパンツやハーフパンツ、スリットの利いたスカートやレギンスのレイヤード。そこにフルーツ柄のアイテムがアクセントとなる。
ホワイトマウンテニアリングは、都会と自然の間をつなぐスタイルをずっと作ってきた。アウトドアを背景にしながらも、ヘビーデューティーなスポーツウェアに寄り過ぎず、かといってモードのど真ん中でもない立ち位置。デザイナーブランドのビジネスとしては空白に近い市場だった。しかし、ここ数シーズン、市場として伸びているののはこの領域。「アンドワンダー」など、この市場を意識した競合ブランドも増えている。それだけに15周年を迎えるこの市場での先行ブランドとして、クリエイションとビジネスでの次のステップを描く必要がある。ビジネスではモードの小売店だけでなくスポーツの店を意識した売り方もトライしている。クリエイション面では、今回大々的にみせたウィメンズのマーケットで違いを見せられるかどうか。モノ寄り、ギア寄りのメンズ市場とは少し異なるニーズとなるウィメンズ市場で、どうブランディングを進めるかが問われている。
ミツルオカザキ(岡崎満)は、ピエロをモチーフにしたコレクションを見せた。サーカス団の衣装を思わせるマルチストライプやダイヤ柄を切り替えたアウター、ピエロのステッチ刺繍のシャツ。ピエロの持つちょっとした毒気が不思議な魅力を放つ。ツータックのストレートパンツなど面白いカッティングもあるのだが、サンプルの型数としてはファッションショーをする規模にまで達していない。だからショーとしてみると展開力の乏しさを感じてしまう。ただし、展示会ベースだけでは、ビジネス規模がなかなか大きくなっていかないのも今の日本市場の現実ではある。システムとしてのショーの使い方とビジネスへの還元をどうデザインしていくのかも、岡崎には求められている。
(小笠原拓郎)
ミカゲシン(進美影)は、マスキュリン要素とフェミニンなテキスタイルを掛け合わせ、独特のバランスで都会的なワードローブを見せた。男性の購入が増えて、ジェンダーフリーの表現へとかじを切った進がテーマにしたのは「ブンリハ」。1920年に旧態依然とした体制からの脱却を目指して結成された分離派建築会の信念と美学に感銘を受け、芸術性に立ち帰るファッションに向き合った。テーラードジャケットは途中から田園のプリント柄やマーブル柄に切り替わる。同様にスタンドカラーのドレスも田園柄に切り替わり、曲線状にカットしたスリットからプリーツスカートの流線的なシルエットを浮き立たせる。「都会的なものを目指しつつも自然に帰りたくなる二律背反の要素を反映した」と進。シャーリングで彫塑的に見せたトップ、スカート付きトラウザーなど、フェミニンというよりも力強さのあるフォルムに、新しい時代を開くパワーがあふれ出ていた。
古着のアップサイクルを軸にするスリュー(植木沙織)は、テーラード仕立てのセットアップなど、品の良い着こなしを新たな魅力とした。女性のモデルが着用するロゴ入りTシャツに光沢素材を切り替えたジャケットは、肩の線が体が合っていて古着っぽさを感じせないクリーンなムード。片側がドロップしたアシンメトリーなTシャツ、デニムの巻きスカートにはしっかりとプリーツがかかる。ストリートっぽさを持ちながらも、直線のシルエットやパールの装飾を交え、きりりとした印象に仕上げた。閉塞(へいそく)感のある今だからこそ、デイリーウェアを通じて背筋が伸びる装いを楽しんでほしい、そんな作り手の思いがストレートに伝わる2年ぶりのショーとなった。
(須田渉美)