ネットからお茶の間に進出 話題のVチューバーとは?

2019/02/09 06:30 更新


【センケンコミュニティー】ネットを飛び出しお茶の間にも進出 話題のVチューバーとは?!

 「バーチャルユーチューバー」(Vチューバー)が盛り上がっています。Vチューバーとは、生身の人間でなく、CGなどを使いキャラクターとして活動する動画配信者のこと。必ずしもユーチューブで配信しているわけではありませんが、動画配信の主流がユーチューブのため、Vチューバーと呼ばれています。

 キャラクターは、モーションキャプチャーで人間の動きに合わせ体や顔の向き、表情を変えてしゃべります。トップレベルになるとユーチューブのチャンネル登録者数は数十万人を数え、三省堂の「今年の新語2018」では「Vチューバー」が5位に選ばれました。テレビ各局で特集が組まれるなど、ネットを飛び出してお茶の間へ着々と進出しています。

 エンターテインメントで先行しているVチューバーですが、ビジネストレンドにもなりつつあります。Vチューバーが今後どうなるのか、また企業の活用事例をリサーチしました。

■ポストゆるキャラ

 Vチューバーの人気を受け、企業が自社商品のPRなどに活用する動きが活発だ。企業向けにVチューバーのキャラクター製作・動画作成のサービスやスマートフォンアプリが続々と出てきている。

 地域振興にも広がっている。自治体や地元企業、さらには有志の個人が、地域の広報キャラクターとしてVチューバーを作ったり、既存のご当地キャラクターをVチューバー化したりと、「ポストゆるキャラ」ともいえるムーブメントになっている。

 Vチューバーを分析するVチューバーとして活動しているセツナ・リビデシュタインさんが作成するリストによれば、Vチューバーの数は18年12月時点で総数6558人。ユーチューブにアップロードされた自己紹介動画を基に調査しているため、実際はさらに多い。Vチューバー専門の事務所が設立されるほか、オーディションが開催されたり、既存の芸能・音楽事務所に所属したりと、新たな芸能界のような一面もある。

Vチューバーを分析するVチューバーのセツナ・リビデシュタインさん

■追っかけファンも

 活動のスタンスは様々だ。大きくは、①個人がフリーで、②個人が事務所に所属、③企業主導で活動する3タイプに分かれる。セツナさんによれば、タイプにかかわらず18年後半からアイドルグループのような「複数名でのグループデビュー」が増えてきた。「個性・特技が異なるVチューバーをグループ化することで、視聴者に対して好みのVチューバーが見つかるように工夫されている。多くの視聴者に認知されファンを獲得するのに優れた手法」とする。そうした動きのなか、「企業やグループのブランド化によって〝箱推し〟と呼ばれるブランド全体を追いかけるファンが生まれている」という。

 視聴者の目に留まるには、もちろん活動内容も大切だ。セツナさんはVチューバーの活動内容を、知識技術創作を提供・披露する「クリエイター」「アクター・コメディアン」、視聴者もしくはVチューバーとの時間共有を目的とした「タイムシェア」に分類し、一番視聴数を得られるのはアクター・コメディアンだと分析する。アクター・コメディアンタイプは「話術や企画が秀でている人は、数十万の動画再生、生放送では1万超の視聴者数を集めることもある」という。

 クリエイタータイプは優れた技術を持つものの、自己プロデュース力が伴わず埋もれていることも多い。今後は「クリエイタータイプのVチューバーの技術を、アクター・コメディアンタイプのVチューバーが紹介、体験するというような、企画またはコンビのVチューバーが登場すると、新しいコンテンツや市場が産まれてくるのではないか」とみている。


活用事例も続々

伊勢丹新宿本店の玩具売り場 子供の本音聞き出す販売員の猫

 伊勢丹新宿店は昨年12月、玩具売り場のクリスマス催事で、3DCGの猫のキャラクターが、子供を接客した。電通とアプリ開発のエジェ(東京)が共同開発した「キャラトーカー」を利用した。

 来店客に体験を通して楽しい思い出を持ち帰ってもらうことが狙いだ。会場にキャラクターが映ったモニターとマイクを置き、販売員がバックヤードからスマートフォンを通じてキャラクターを操作した。猫に扮して子供の好みを聞き、それに合ったおもちゃの画像を表示して紹介した。声はボイスチェンジャーでキャラクターらしさを演出した。

 伊勢丹新宿店の玩具・パークのバイヤー、西山裕慈さんは、「子供と自然なコミュニケーションをできたことが大きな収穫だった」と話す。当初は社員がモニターの前で司会をしていたが、子供に威圧感や敷居の高さがあると感じ、途中から司会を置かずにキャラクターが通りがかる客に話しかけて注意を引くスタイルにしたところ、自然と会話が始まるようになったという。楽しむ子供の様子を見た親が喜ぶ姿もあった。

 猫になりきる〝中の人〟は販売員が担った。キャラになりきる恥ずかしさや機材を使うプレッシャーもあったというが、声優から声の出し方や表情の作り方のレクチャーを受けるなど事前の練習によって解消した。「一番入っていた人間はかなりの上達で、なりきり具合が最高だった」

 今後もVチューバーの活用を検討する。Vチューバーが「キッズフロア全体のアテンダント」となり、子供の積極的な来店動機になることを期待する。玩具売り場の顧客は多数いるが、子供自身が伊勢丹ファンとなっているケースはまれだ。

 ファンの獲得には子供との関係性の構築も大切になるが、「社員は異動によって客との関係性がリセットされることもあるが、Vチューバーであれば、中の人が入れ替わることで連続性を保てる」ことに可能性を見いだしている。


自然と子供たちから話しかけてくる


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平和堂の店頭イベント 対話の面白さで3倍売れる

 量販店の平和堂では昨年12月、公式Vチューバー「鳩乃幸」(はとのさち)がデビューした。店頭のイベントなどでモニターに表示して、オンラインライブ配信でお客とリアルタイムに対話する。「バーチャルでありながら、ヒューマンの魂を持ったコミュニケーション」をすることで同社とお客の新しい接点を作ることを狙った。「鳩乃幸に会いに来るために来店してもらえるようにしたい」という。

平和堂公式Vチューバー「鳩乃幸」(はとのさち)

 すでに店頭にも登場。ビバシティ平和堂で実施したイベントでは、1日4回のライブ配信による対面販売で客と交流した。合計273人の客とやりとりしたと同時に、販売したPBのシュークリームは前週同曜日比の約3倍の売り上げという成果も出ている。

 実際にVチューバーと対話できる面白さを実感してもらうために、じゃんけんを取り入れたり、客の性別や着ている服、手に取って興味を示した商品などをじっくり観察して声掛けすることを意識した。そうすることで「世間話で盛り上がることもあった」という。「店頭でもインプレッション数は今までより相当高く、子供から年配者まで多くの関心があった」。一方で「動作や描写の質をいかに上げていくかは課題」とする。

 今後はSNSやスマートフォンアプリ、ユーチューブなどインターネットでの発信も強める考えだ。

 同社のVチューバーはアドパック(大阪市)と、リアライズ・モバイル・コミュニケーションズの「バーチャルプロショッパー・ソリューション」を利用して実現した。

世間話で盛り上がることも


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サントリー 遊び歌う119歳の美少女

 「燦鳥ノム」(さんとりのむ)は、18年8月にデビューしたサントリー公式のVチューバー。ドワンゴの協力で開発した。

 創業者が鳥井商店を創業した年と同じ1899年生まれの119歳(デビュー当時)という設定で、やわらかな物腰ながら活動は自社の商品紹介以外にもチャレンジング。

サントリー公式Vチューバー「燦鳥ノム」(さんとりのむ)

 「多くの方々に燦鳥ノムを知ってもらい、魅力的に感じていただく」ために、ゲームのプレー実況や、「歌ってみた」(歌をカバーする動画)など、バラエティー豊かな投稿で人気を集めている。19年1月時点でユーチューブチャンネルの登録数は6万6000人、総視聴回数は400万回を超える。

 Vチューバーを企業が広報に活用する際は、既存のVチューバーを採用することが多いが、同社は「消費者との継続的な接点の構築を目的に」独自開発した。

 今後は、動画コンテンツのほかにグッズ展開なども検討している。また、1月25日にはサントリー公式Eスポーツアンバサダーへの就任を動画で発表しており、サントリーのEスポーツ日本代表支援の取り組みを紹介する。

ユーチューブで配信している(自己紹介動画のキャプチャ)


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ウイルコム 珍しい商品にも親しみ

 携帯電話周辺機器、自動車用品のウイルコム(横浜)は1月、小型音声翻訳機「どこでもトーク」をカスタムカーイベント「東京オートサロン」で展示した。

 そこでVチューバーの「バーチャルプロショッパーりあ」(リアライズ・モバイル・コミュニケーションズ、東京)に登場してもらい、モニター越しに商品説明をするバーチャル実演販売を披露した。同社は、同商品の販促に自社公式キャラクターのほか複数のⅤチューバーを起用している。

 「翻訳機のようなマニアックなものでも、親しめると同時に、違和感もあることで興味をもってもらえるVチューバーを通じて、ゆくゆくは自社のファンになってほしい」という。自社の顧客は40~50代がメインで、どこでもトークも想定する購買層は中高年だが、Vチューバー活用で狙うのは10~30代。長い目で将来の購買層を育てる。

 バーチャルをリアルの場につなげることも意識。他に起用しているVチューバーでは、「富士葵」(スマープライズ、東京)のキービジュアルを店頭に設置すると、写真を撮るためにファンが来店することがあるという。今春には、新たな同社公式Vチューバーの発表を控える。

ゲストとかけあいながら商品説明する「りあ」

(繊研新聞本紙2月5日付)



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