JAMトレーディング(大阪市)は、「古着屋JAM」を主力にする古着小売業。ECが先行する形で事業をスタートしたのに続き、実店舗の出店も進め、売り上げを伸ばし続けている。独自に築いてきた海外の仕入れ背景を強みに、関西だけでなく、原宿など全国の大都市にも店舗を拡大中だ。古着がファッションとして広がっているなか、こだわりや自分たちの〝好き〟という思いを大切に、日本一ファンの多い古着屋を目指す。
好きを原動力に3坪の店から起業
――古着屋JAMを創業するまでについて。
学生だったころは古着ブームで、古着屋の存在そのものが自分の中で一番かっこいい場所でした。スタッフの方もあこがれの対象でした。大学を卒業して繊維メーカーに入社するのですが、2年半ぐらいで脱サラ。その後フリーターをしたり、オーストラリアにワーキングホリデーで行ったりしたのですが、ずっと根元には「自分で起業したい、古着屋さんになりたい」という気持ちがありました。
お金もコネも経験もないなか、オーストラリアで買い付けた古着と限られた軍資金をもとに、02年に大阪・アメリカ村で、10平方メートルの古着屋を開いたのが原点でありスタートです。その後、どういう風に古着屋JAMが生まれたかというと、現在当社の取締役兼バイヤーを務める上古殿雄介との出会いがきっかけになります。
もともとは私の店のお客様だったのですが、彼も店を開いて交流が深まり、いっしょに海外へ買い付けに行くようにもなりました。買い付けた古着をどう売るかを追求するなかでヤフオクを始め、お互いに仕入れルートが同じということもあって、2人でヤフオク専用にビジネスをするようになりました。
ところが入居していたビルが火事になるなどし、2人とも実店舗とネット販売の事務所を閉めることになりました。2人でネット販売の事業を再開し、徐々に商売の規模を広げていきました。再開直後は自宅を営業所代わりにしたこともありました。ヤフオクで月商1000万円ぐらい売れるようになり、08年に楽天市場にも出店しましたが、最初はなかなか売れませんでした。商品をなるべくたくさん出すようにアドバイスされ、受注が増えていきました。そのうち楽天の売り上げがヤフオクを逆転し、楽天が中心に変わりました。
――実店舗の再開はいつごろ。
ECが先行し、ネット専業になっていましたが、当初の思いもあって、「やっぱりどうしても実店舗がやりたい」と考え、09年に当時倉庫のあった大阪・玉造に古着屋JAM1号店を開きました。当時はまだECとも連動していませんでしたが、その後12年に大阪・桃谷に開いた店は、ECで扱っている3万点の商品がいつでも試着できるところとして全国から多くの人が訪れてくれました。
――古着屋JAMの特徴は。
主力業態で、幅広いラインナップの古着を用意し、古着初心者からビンテージマニアまでが楽しめます。アメリカの架空の街ジャムタウンをコンセプトに、アメリカの街にいるような雰囲気を演出した大型の店作りをしています。
ビンテージセレクトストアとして、店頭に並べる商品にはすごくこだわってセレクトしています。扱い商品のクリーニングやプレスにもこだわり、店頭には古着ショップ特有のにおいがありません。年間の平均客単価は約8500円。客層は20代から40代が多く、大体男性が65%、女性が35%の比率です。
――別業態もある。
「ロエコ バイ JAM」は、古着屋JAMがロープライス&エコを切り口にした低価格ショップです。古着屋JAMでは扱わないけれど、まだまだ着られるおしゃれな古着を、気軽に自由に楽しんでもらえる店として打ち出しました。5000円でトータルコーディネートが楽しめる品揃えで、初心者、低価格、おしゃれが好きな人をターゲットにしています。平均客単価は約2800円です。「エルル バイ JAM」は女性マネジャーを中心に、レディスに特化して店作りしています。古着をメインに古着のリメイク、オリジナル商品も投入し、女性の古着ファンを増やしています。平均客単価は1万円弱。大人の客層も少なくありません。
スタッフの成長が出店の大きな支えに
――古着の魅力、現在の人気について。
ファッションの流れとして90年代に流行していた古着がまた2020年代に、ということなのですが、今回の人気は、ファストファッションブームの後の多様性やSDGs(持続可能な開発目標)で、古着というものの良さが見直されていると言われています。
「古着で3000円もするの?」という人もいますが、同様の価格の新品に比べ、肌触りの良さなど魅力を持つ古着もあります。目利き次第で、もともとこだわって作られ、新品の時の定価が高く、本当に質の良いものがあるのが古着の魅力です。
古着屋やそこで働いている人たちのパワーも大きく影響していると思います。個店それぞれが持つこだわりや熱量はすごいです。積極的なSNS発信により、古着というワードやコンテンツが拡散し、ちょうどZ世代をはじめとした人たちに注目されているのではないでしょうか。店の熱量が冷めなければ、たぶん古着の勢いはまだ続くと思っています。
――自店の強み、積極的な出店の背景は。
強みは何といっても仕入れです。長年の積み重ねもあり、海外ディーラーとのコネクションについては他店よりも分厚いと思います。仕入れ拠点はロサンゼルスが中心です。仕入れを適正化するためにPOS(販売時点情報管理)を活用していること、同じ目標を共有するスタッフの多さも店の強みにつながっています。
前期(21年11月期)は期中に10店を出しました。古着ビジネスはかつてお客様を選ぶようなニッチなイメージでしたが、購買層が広がっていい立地に店が移るなど、環境が変わりました。今がチャンスと考えている古着業界の人はたくさんいると思います。当社も負けていられないといった状況です。スタッフの成長も出店の大きな支えになっています。
――EC化率の高い点も他店にない特徴だ。
前期売上高約17億円のうち、EC売上高は約6億円。EC売上高の70%強を自社ECが占めています。ECが強い背景は、もともとEC先行でビジネスをしてきたことが大きいでしょう。売り上げはずっとECの方が実店舗を上回る形で推移してきて、この1、2年で実店舗の方が逆転した状況です。
最近はオムニチャネル、OMO(オフラインとオンラインの融合)を強化する小売店が目立ちますが、当社ではもともと、実店舗は日中に、ECは20時以降や大雨の日、元日のような実店舗が休業する日に、という風にリレー方式で相互が補完し合っているイメージです。
現在、古着屋JAM堀江店は、ECと在庫を共有している状態で、3万5000点のEC商材を試着でき、これからもっとその点をアピールしていく考えです。
21年2月から自社アプリを導入し、それと同時に実店舗とEC、そして3業態のポイントも統合しました。アプリユーザーは大体、月5000人ペースで伸びています。実店舗とECとを行き来するクロスユーザーは約11%です。
――会社としてこれからの目標は。
目指すゴールは、日本一ファンの多い古着屋です。これを実現するため、定期的に社内ミーティングを実施しています。会議を通じ、スタッフも経営者目線を養い、同じ目標を共有しています。スタッフが育ったおかげで広島や福岡、仙台などにも新たに進出できました。
売上高は、当面の目標として24年11月期に30億円を目指しています。実店舗で20億円、ECで10億円をイメージしています。
――成長持続に向け、採用や働きやすい環境の整備は。
22年4月に当社店舗でアルバイト経験のある3人が新卒入社します。先行して3月には11人がアルバイトから正社員になります。社内は残業時間が減り、有休の消化率が上がっています。今ちょうど2カ月の育児休暇を取った男性社員もいますし、アルバイトスタッフの中にも育児休暇後に復帰してくれている人材がいます。
日本一ファンの多い店を目指すからには、この店の一番のファンが、まずここで働いている人たちであるべきだと考えています。そのためにも安心して働いてもらえる環境は整えているつもりです。もちろんバイヤーやスタッフなどの人材育成ももっと進めていきます。
スタッフ、お客様だけでなく、当社に関わるすべての人にもJAMのことを好きになってもらいたいと思っています。そのために私自身も一つひとつの機会をもっと大事にしていきたいです。
■JAMトレーディング
07年設立。海外古着の輸入小売りをECからスタートし、08年に楽天市場に出店。09年に古着屋JAM1号店を開いた後、12年に桃谷店、自社ECサイトをオープン。14年に堀江、16年に京都にも出店するなど関西で店舗網を広げ、21年には原宿、広島、福岡にも進出した。22年に入ってからも仙台店を開くなど大都市への出店を継続している。古着屋JAM以外に、17年からレディス古着のエルル バイ JAM、19年からロープライスとエコを切り口にしたロエコ バイ JAMも立ち上げて提案の幅を広げた。21年11月期の売上高は約17億円(前期比約36%増)で、期末店舗数は18店(古着屋JAM8、エルル2、ロエコ8)。EC売上高は約6億円を占める。従業員数は255人(22年1月時点)。
《記者メモ》
大好きであこがれていた古着店を、就職氷河期の中で、脱サラしてまで実現。ふだんの話しぶりや表情からも、古着が好きな気持ちが伝わってくる場面が多々ある。今回、古着の魅力を話してくれた時も、自身が着ている古着を見つめながら、熱く語ってくれた。
古着は一点物であり、同じブランドやアイテムであっても状態が異なる。新品を提案するビジネスモデルはそのまま単純には当てはまらないが、POSで一つひとつの在庫を管理し、売れ筋把握をはじめとした分析、そして予測を行い、精度の高い古着ビジネスを実現している。自社商品管理倉庫では、採寸データを取り込むブルートゥースメジャー、ICタグの採用など、先進的な技術も活用されている。
取材の中で、「同じ方向(目標)を見てくれるスタッフが増えている」とうれしそうに話したように、社内が一つにまとまることは大きな可能性につながっていく。「自分たちが自店の一番のファンであるべき」という考えには、とても共感させられた。これからも躍進に期待したい。
(小畔能貴)
(繊研新聞本紙21年2月18日付)