フェニックスインターナショナル脇坂社長 究極のQRで残さない物作り

2020/07/23 06:28 更新


【パーソン】フェニックスインターナショナル社長 脇坂大樹さん 究極のQRで残さない物作り

 一昨年末、ファンドの支援を受け、香港の大手商社・フォングループから離れ、社名もフォーワード・アパレル・リミテッドから、本人も思い入れが強い創業時のフェニックスインターナショナルに5年ぶりに戻し、社長に就いた。新生フェニックスのトップとして、約100人の社員とともに、物作りでサステイナビリティー(持続可能性)を追求する。令和の時代にふって沸いたコロナ禍、より厳しくなると予想されるポスト・コロナの時代に生き残るために会社の構造改革を進める。OEM(相手先ブランドによる生産)でもODM(相手先ブランドによる設計・生産)でもない、フェニックス・メイドを意味する〝OFM〟を掲げ、真のサプライチェーン作りに奔走する。

コロナ禍は最後の好機

 ―-昨年1月に新会社となり最初に手掛けたのは。

 会社の意思を改めて示すために自社サイトを一新しました。物作りの会社として、中国、モンゴル、日本の自社・協力工場も全てつまびらかにみせ、「我々はこういう人たちと生産活動をしています」と言う背景がわかるようにしました。言わばトレーサビリティー(履歴管理)の公開です。我々はOEM/ODMの会社。アパレルから仕事を受ける立場ですが、業界ではややもするとブランド側が華やかで偉いと思われがち。でも、物作りのプロとしての矜持(きょうじ)を社員に持ってほしい。物作りの会社だけど発信をしなければと思い、サイトを新しくしました。

 人事制度も刷新しました。元々のフェニックスは成果主義でしたが、フォングループの時代には悪い意味でのサラリーマン化が進んでしまいました。今回の制度刷新で、年2回の昇給・降給の評価体系を設けました。生活ボーナス給みたいなものもありませんが、基本給はそれなりにしています。

 ―-現場の組織も変えた。

 新会社になるイメージを頭に描きながら、会社が変わる半年前から先行して進めたものです。属人的になりがちだった仕事のやり方を、「営業部」「生産部」「企画部」と部単位に変えました。個人からチームプレーへの変革です。働き方を標準化する方向に舵(かじ)を切り、チームで当たるようにしました。どこを切り取っても「フェニックス基準」にするのが目標。それが企業のブランド化につながるからです。正直、マニュアルとかルールの類は好きではありませんが、最低限のスタンダードには全員が達していないと。まだまだ改善の途中ですが成果は出ていて、昨年からは大きなトラブルはなくなりました。

 ―-ファンドが付いた利点は。

 財務面が安定するため、金融機関や取引先にとっては随分安心感はあるはずです。単体での企業運営では難しかった。

 ―-新生1年目の終わりに中国で新型コロナウイルスが発生した。

 1月下旬の旧正月前ぐらいから、納期遅れなど実際のビジネスに影響が出始めました。我々の工場は蘇州で、しかも従業員のほとんどは出稼ぎではなく地元雇用なので工場は稼働できたのですが、素材が届かなくなった。4月ごろからキャンセルも出始めました。「仕掛かり品は量を減らしてくれ」「糸だけ秋口の生産用に回してほしい」なども含めて1億円ほど。本社は4月7日の緊急事態宣言から班を分け隔日出勤にしました。

 生産に関しては、昨年から考えていたことを進める好機と捉え、工場改革を進めています。コロナ問題の有無とは関係なくやろうとしていたことで、コンサルタントを招いて取り掛かっています。資本関係がなくても、仕事のほとんどがフェニックスからの注文である工場への設備投資はうちがやらせてもらっています。今後は外注比率も下げて、自社工場内に機械も増設していきます。

中国・蘇州の工場で

 ―-具体的にどんな風に改革するのですか。

 例えば、ニットのライン化です。縫製工場ではあるのですがニットはほとんどないはずで、これを実現したい。現状は製造プロセスごとに、例えば、編み立てのパートで20枚なら20枚分が束になってドカンと置いていて製品が流れない。これをラインにして流せれば、どんどん前で仕上がっていき、効率を高められる。生産管理システムも導入し、営業が毎日現場の状況を把握できるようにします。

 我々が変えようとしている内容は奇手でも妙手でもなく、超王道。でも、これを徹底できるかが差を生む。トラブルも少なくなったではダメで、ゼロにしたい。それが会社に対する信頼感を醸成し、会社がブランドになっていくからです。

 ―-コロナ禍を通じてアパレルの考えに変化がありますね。

 取引先は発注を抑えたい所が多いですから、QR(クイックレスポンス)に対する要望は増えています。なので、これまでのイメージを一新した「超ウルトラQR」を実現したい。

 取引先とは15年くらい前からQRについて話しています。アパレルさんも販売計画はあるのでできそうな話なんですが、実際には、企画担当者の判断で細かい仕様のものをパラパラ受注する場合が多く、どうしても生産効率は悪くなる。もちろん、受け身で注文を聞いてしまう作り手側にも責任があります。

 商流全体を俯瞰(ふかん)して、最適化を探る人がいないのが問題点の一つで、我々がその役割を果たせるのではと思っています。フェニックスの創設者が繰り返し現場に言っていたのは「コネクト役になれ」でした。生産のための「工業語」も、トレンドやマーケットニーズの知識である「商業語」も話せないとうまくいかないよ、と。自分もアパレルにいたことがありますし、我々は両方分かる会社です。

実現したい本質的なサステイナビリティー

 ―-OFMについて詳しく。

 フェニックスでしかできない製品やサービス、やり方を指します。OFMを通じて工場が整備されてきたら、生産のキャパは限られることになる。これからは無理して受注することはしないつもりですし。今100ブランドぐらい請け負っていますが、3年ほどでそれを半分ぐらいにしたい。しっかり手を握れるところとだけ取り組みたいですね。その方がサービスもモノも今以上で提供できますから。「良いものがあったら持ってきてよ」という商売にだけ応えていたら、もう生き残れません。

 アパレルサイドは仕入れ枠を70~80%にしたい。それに対し2、3週間で納品できるようにする。しかし、そのためには素材も用意しないといけないので、アパレルとグリップしないと無理です。工場をきちんと整備して、マンパワーだけに頼らないQRを実現したい。そのためには単なる取引ではなく、取り組み型であるのが条件です。

 例えば、3000枚の仕入れ計画があっても、最初に3000枚作って納品して1000枚残すより、一定量を初期投入した後に何百枚単位でリピートし、結果的に2000枚で終わった方がいい。「生きたオーダー」だけをやりたいんです。我々のやり方だとオーダーが減る可能性がありますが、それでもいい。1000枚残れば結局、翌年のオーダーも減るから同じなんです。確かにOEMは大量に受注し生産・納品した方が楽ですが、死んでいくオーダーはもう受けたくない。

 ―-少しずつ取引先には話している。

 新型コロナが問題になってから、問い合わせがすごく増えましたからね。業界にとってもチャンス。マンパワーに頼った表面的なQRじゃなくて、双方がリスク負担した本当のQRが実現すれば、商品の原価率を上げられる。そこまで踏み込んだ話をしていますし、取引先さんも聞いてくれています。

 ―-QRをベースにするとこれまでと比べて販売機会ロスが生じる可能性が高い。アパレルは嫌がらないか。

 アパレル側にも覚悟が必要じゃないでしょうか。機会ロスは困るけど、QRはどんどんやってくれ、と言われても体力は持たない。二兎(と)を追って何も得られなかったら、本当にアパレルに未来はありません。

 今は足らないぐらいの方が良いのでは。「なくなると困るから早く買おう」となり正価販売につながりやすくなります。いつも商品が余っているから「セールでいいや」となっているのが実態。いつ店に行っても商品が余っている状態が望ましいとは思えません。

 結局、実現したいのは本質的な意味でのサステイナブルなんです。有機綿です、エコ素材を使っています、それはそれで良いのでしょうが、そのあとの商流全体をみないと、本当のサステイナブルは実現しません。各段階で「サステイナブルとは何か」を考えて受け渡しをしないと持続可能性は薄れていきます。工場だけが最適化しても、片肺飛行ですから続きません。

 余計なモノを作らないのがフェニックスにとってのサステイナブル。残念ながら、国内で流通している衣料の半分は焼却などで廃棄されています。取引先と組み、必要な量をジャストなタイミングで供給できれば、アパレルにとっても、工場を含めた我々にとっても、消費者や社会にとってもいい、まさに三方良しじゃないですか。

 今のアパレルさんのプロパー消化率は50%ぐらいの設定でしょう。これを70%にできるとメリットは大きい。機会ロスが生まれる可能性はありますが、残っても良い前提で大量生産して大量に残し、余ったからと焼き捨てるのが正しいやり方なのでしょうか。

 もう、さすがに真剣にやらないと我々はもとより、アパレル業界にも未来はない。アパレルは、若いミレニアル世代にとっては嫌いな業界になっていると聞きます。着られる商品を大量に焼き捨てる業界に夢を感じろと言うのも無理がある。体力が削られた業界にとっては今回が最後のチャンス。不退転の構えでサステイナブルなサプライチェーン作りの一役を担いたいですね。そのためには、双方がリスクテイクした、フェアなパートナーシップの構築が欠かせません。

わきさか・ひろき 1972年、大阪市生まれ。ニットデザイナーとして数々のブランドの企画に携わったのち、98年旧フェニックスインターナショナルに入社。05年に自身のブランド「サイドスロープ」をリリース。20年新会社の社長に就任。高校時代はラグビー部所属、現在の趣味は本気のゴルフ。

■フェニックスインターナショナル

 新会社は2019年創業だが、旧フェニックスは80年の創業。ニット・カットソー中心に、布帛やレザーの衣料品及び雑貨の企画・製造・輸出入・卸売りを手掛ける。セレクトショップや大手アパレル、スポーツブランドなど取引先は幅広い。

記者メモ

 取材で出会ってから15年、紆余(うよ)曲折あった過程もずっと見てきた。アパレル出身だが、一貫しているのが工場への愛だ。物作りへの愛とも換言できるが、その熱は半端ない。だから、商品が棄てられるのは我慢できないのだろう。サステイナブルがバズワードになるずっと前から、変わらない商売構造に不満を持っている。売れていた時のやり方を売れなくなっても続けている。だから、今後は捨てるしかない。これは一体なんだ、と。

 OFMを掲げ、ウルトラQRの実現で売れ残り在庫を減らす取り組みを始める。「最初の発注は少しでいいですよ」と話すが、それは結果として同社のオーダーを減らす可能性もある。それでもやるつもりだ。取引先にはパートナーシップと、販売機会ロスが生まれるリスクを引き受けることを求める。

「今回ダメならもうない」と話すが、取引先はこれにどう応えるのか、注目だ。

(永松浩介)

(繊研新聞本紙20年6月17日付)

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