建築デザイナー川島義信さん 立地から空間重視に価値観変わる

2020/07/13 06:27 更新


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【パーソン】建築デザイナー川島義信さん 立地から空間重視に価値観変わる

 アパレルからレザー、時計、建築など幅広い分野で活動する。感性を刺激するデザインは若い才能を育て、10年に完成した集合住宅の代表作、「フラットガゼレイ」から巣立ったクリエイターは多い。細部までこだわりぬいたデザインは今も色あせず、アグレッシブさを保ち続けている。新型コロナウイルスを機に、価値観が大きく変わろうとしている。新しい時代の建築デザインはどうあるのか、何が求められているのだろう。

新しい時代の定番を作り出す

 ――インタビュー記事で「ネクストスタンダード」と述べていました。そこに込めた思いは。

 腕時計の開発アドバイザーを務めた08年、「ネクスト」「ネクストスタンダード」という表現を使いました。大きな節目の2000年代の8年が過ぎ、前に向かっていこうという社会の空気を感じていました。ファッションも、新しいかっこいいスタイルが出てきていた。社会も時代も大きな変化の予感がありました。

 言葉は時代の一瞬をとらえることもできるし、次の時代を感じさせることもできる。流行語も大切ですが、文化として根付き、クリエイションをかきたて、クリエイターの背中を押すような言葉も重要です。「ネクスト」には、新しい時代について考えてもらいたい、豊かで楽しい時代を作って欲しいという願いを込めました。新しい時代の定番とは、今の定番の延長ではなく、「ネクストスタンダード」なんだという思いがあります。

 ――次の時代に必要なものは。

 クリエイションを置き去りにして生産性や効率ばかりを追求するのは、とてもつまらないことです。ゼロから物を作るアーティストやクリエイターをもっと大切にしないと、つまらない社会になってしまいます。企業や社会が懐深く、人材を育てていかないと、ネクストスタンダードは実現できません。新しい時代に成長することができないのです。

 ――建築デザイナーとして異色の経歴です。

 建築デザイナーとして実績も重要ですが、建築以外にどんなことをやってきたかも大切なことなのです。海外の実業家へのプレゼンテーションでは、「学生時代はサーフィンをやっていた」ことから入ります。サーフィンをやったことがなければサーファーの気持ちは分かりません。大学卒業後はアパレル、革小物、シルバーアクセサリーなどを経験しました。アパレルショップでは、かっこ良く心に響くディスプレーと、商品の魅力を引き出し思わず手を伸ばしてしまうレイアウトで、売り上げ記録を毎月更新していました。入店客が買いやすいように隅々まで気を配ることは、住宅建築では暮らす人のライフスタイルに合わせて動線を考え、デザインの細部まで考えを巡らすことにもつながります。布やレザーなど軟らかい素材を扱ってきたことは、建築でも生かされています。随分回り道をしましたが、全て無駄ではなかったと感じています。

 どんなことをやってきたのか、経験値が試される時代。経験の量と質が問われます。ゼロから新しい物を作る時、何ができるか。経験値が高ければ可能性も高まります。

 また、建築は多くの人の協力が欠かせません。衣食住のバランス、時間の使い方、趣味など人としてのバランスも重要です。職人さんや棟梁(とうりょう)、一緒に働く人たちから「楽しく仕事ができた」「また一緒にやりたい」と思ってもらえることも大切ですね。

 ――今後はどんなことを。

 住宅だけでなく商業施設や複合ビルなどもっと範囲を広げたいと考えています。建築を通して街を魅力的に変えていきたいという思いも持っています。

 魅力的な街とは、メンズファッションで言えば「コートの似合う街」だと思っています。都会的でセンスが良く、洗練された大人のイメージです。コートを着た男性が違和感なく溶け込めて、コートを引き立たせる雰囲気を持った街。建築を通じてそんなおしゃれな街を育てたいですね。

駅チカの縛りを解き自由に発想を

 ――新型コロナウイルスの流行を経験して、価値観が変わろうとしています。

 外出を自粛し、今までとは全く違う時間の過ごし方をみんな経験しました。日常が戻ったとしても、この数カ月の前と後では価値観は大きく違っているのでしょうね。働いて得たお金を価値のあるものに使いたい。自分の空間を大切にしたい。そんな考え方がさらに強まっていくと思っています。

 これまで、住むにしても働くにしてもイベントにしても、駅チカがいいとみんな思ってました。何よりも便利ですし、効率的に働ける、移動の時間を節約できます。でも、立地に縛られるから制約も大きい。狭いし、時間の融通がきかない、自然が感じられない。それでも、便利だからと我慢して制約を受け入れてきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の生活や、安全に暮らすことの大切さを経験して、生活や仕事の場が駅チカにあることが本当に豊かなことなのか、そう思うようになってきました。駅チカであることの価値が見直されようとしています。

 私がデザイン、プロデュースした地上6階、一部7階建ての集合住宅、「フラットガゼレイ」は、7階屋上を「ギャラリーガゼレイ」として、使う人が自由に発想のできる多目的な空間にしています。ペントハウスをイメージした部屋にはシャワールームやバーカウンターを設けて展示会や撮影、パーティーなど様々なイベントに使え、屋外にはファッションショーのできるランウェーもあります。庄内川に近く、庄内緑地公園にも歩いて行けて、それでも名古屋駅まで直線で3.5キロほど。タクシーなら1500円、10分足らずです。先日、結婚式の2次会で屋上を使ってくれたカップルは、ペントハウスでパーティーを開き、カップルでランウェーを歩いて喝采を浴びていました。

「フラットガゼレイ」の室内

 このギャラリーガゼレイをもっと、ファッション業界の人に使ってもらいたいと思っています。ランウェーは屋外にあり、部屋も全方位にサッシがあるので、自然の光、自然の風にあふれています。風が吹けば髪がなびき、服の裾が揺れる。自然の雰囲気でファッションを表現をするのに最高の環境だと思うのです。

 駅チカに縛られなければ、もっと自由に表現できる、自由に発想のできる空間がみつかるはずです。住まいも立地に縛られていました。単身赴任者や転勤族も多くは会社の制約があり、会社から何分以内とか。通勤に便利な駅チカの住宅です。しかし、それでは働くことが主で、住むことが従になってしまう。住まいはもっと自由であるべきです。フラットガゼレイには、自分の好きな椅子を置くのにふさわしい空間は「ここしかない」と思ったからと、選んでくれた住人もいます。

 ワンルームでも36平方メートル、天井高は2.7メートルあり、狭さや圧迫感はありません。素材の細部までこだわりながら、全体の調和にも気を配っています。ここに住む人たちの創造力を刺激したいという思いでデザインしました。完成から10年経ちましたが、立地よりも空間重視という考え方は、コロナを経験した今こそ、時代の大きな流れになっていくと思っています。

フラットガゼレイ屋上に設けたランウェー

 ――今後、デザインでのキーワードは。

 「インサイド」「アウトサイド」です。インサイドはまさに建物の中の空間です。それに対してアウトサイドは建物の外の空間。代表的なものはテラスですね。おしゃれなカフェはテラスのデザインが優れていて、気候のいい時期はテラス席から埋まっていきます。もちろん、アウトサイドだけ優れていてもダメで、インサイドとのバランスが重要です。

 建築は住む人、使う人のためにあるのは当然ですが、優れた建築には街を変える力があります。建物ができれば景観も、住む人の意識も変わります、優れた建物であればあるほど影響力があり、その建物にあこがれてクリエイティブな人が集まり、街全体が変わっていく。

 新型コロナの流行以降、人の意識や考え方は大きく変わり、建築も転換点にあると感じています。これを機に、次の時代を見据えた新しい街作りのグランドデザインが生まれることを期待しています。

かわしま・よしのぶ 1959年名古屋市生まれ。83年テイジンメンズショップ入社、98年オリジナルブランド「ガゼレイジャポネス」を立ち上げ、2000年ギターストラップ、シルバーアクセサリー発表、03年「ラボガゼレイ」を建築プロデュース、06年セイコーウオッチと「ワイアード」商品開発アドバイザー契約、08年分譲住宅6棟を発表したほか、10年に「ヴィアガゼレイ」「フラットガゼレイ」などの集合住宅を完工。09年川島義信デザイン事務所開設、CEO(最高経営責任者)就任。

■川島義信デザイン事務所

 建築プロデュースデザインを中心に、ファッションやライフスタイルなど幅広い分野のデザインを手掛ける。10年に完成した「ヴィラガゼレイ」「フラットガゼレイ」は建築家の鵜飼哲矢氏とのコラボレーションで制作した。住宅は住む人のものでなく、街の共有物という発想で、街の景観を作るデザインにこだわる。

【記者メモ】

 運営していたアパレルショップを断トツの人気店に育て、制作したギターストラップは有名ミュージシャンが愛用する。食品メーカーとの協業でデザインした有田焼のボトルはドバイのフードショーで世界の注目を浴びた。感性を刺激するデザインで、幅広い活動領域でそれぞれ結果を残してきた。建築プロデュース・デザインの分野では海外からのオファーも目立っている。アパレルも革小物も住宅も、デザインする上で重視するのは使いやすさ、住みやすさだ。使ってみて、住んでみて心地良い。その上で美しさと調和させることがデザインのポイントだ。

 その発想は街づくり、都市のグランドデザインにも通じる。住む人が心地良く暮らし、感性を刺激される街。そんな街をデザインするには、幅広い分野での高い経験値が必要だろう。異色の経歴で、活躍のシーンの広がりが期待される。

(神原勉)

(繊研新聞本紙20年6月5日付)

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