【パリ=小笠原拓郎】25年春夏パリ・メンズファッションウィークは終盤になって有力ブランドが相次ぎ力の入ったコレクションを見せた。注目されたのはドリス・ヴァン・ノッテン本人による最後の「ドリス・ヴァン・ノッテン」のショーだ。
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ドリス・ヴァン・ノッテンの自身による最後のコレクションの招待状には、シルバーを背景にLOVEの文字が書いてある。それを見ただけで、何か胸にこみあげるものがある。ショー会場は、パリ郊外の治安の良くないエリア。なぜここなのかと思いながら現地に着くと、大きな倉庫に鮮やかなグラフィティーが描かれている。どことなくアントワープを思い出させる雰囲気に納得させられる。
入り口には定刻前からたくさんの人が行列を作った。その中には、アントワープシックスと呼ばれるドリスの同級生たちの顔もちらほら。ドリスが一線を退くと、アントワープシックスで現役なのはウォルター・ヴァン・ベイレンドンクだけとなる。
会場に入ると、壁には過去のショーの映像が次々と映し出されている。思い出とともにセンチメンタルな気持ちがあふれてくる。30年以上にわたり、パリ・ファッションウィークの主役の一人であり続けた。しかも数年前までは、どこのグループにも属さずにインディペンデントな経営を続けてきた。そんなドリスの本人による最後のコレクションだ。
銀箔(ぎんぱく)が揺れるランウェーに登場するのは、シックなカラーのテーラードスタイル。コートにジャケット、そこにオーガンディのような透け感のあるアイテムを組み合わせていく。タンクトップに重ねたオーガンディトップ、テーラードジャケットにパイソンのインナーとオーガンディパンツを合わせたスタイルもある。襟を立てたテーラードジャケットや黒にゴールドの刺繍のジャケットなど、過去のアーカイブを思い出させるアイテムも登場する。PVC(ポリ塩化ビニル)のような風合いの透けるブルゾンやコートはイエローやピンク。ロマンティックな色と素材を組み合わせたスタイルが揃う。
マットな素材のクラシックスタイルと鮮やかなシアー素材のコントラストが、春夏の軸となる。そこに日本の墨流しと呼ばれるマーブリングの花柄をのせたアイテムを加えていく。ただ、センチメンタルな雰囲気もあったショーの前に比べると、ショー自体は意外とあっさりしているように感じた。もう終わりなのかという、あっけない気持ちになる。それは、一線は退くけれども、まだグランドフィナーレではないというドリスの思いがあるからなのかもしれない。ショー終了後、ドリスからメッセージが届いた。
■ドリスからのメッセージ
FOR YOU, FROM DRIES
これは私の129回目のショーであり、これまでのショーと同じく未来を見据えています。
今夜はいろいろなことがありますが、グランドフィナーレではありません。
私は、かつてマルチェロ・マストロヤンニが、プルーストが想像した失われた楽園のその先にある、逆説的な「未来へのノスタルジー」について語ったこと、そしていつか愛情をもって振り返ることができると知っていながら、私たちが夢を追い求め続けることについて考えます。
私は自分の仕事を愛し、ファッションショーをすることを愛し、ファッションを人々と分かち合うことを愛している。クリエイションとは、生き続ける何かを残すことです。
この瞬間の私の感覚は私だけのものではなく、いつも、いつまでも、私たちのものなのです。
アートピースを並べた会場でロエベは、ジョナサン・アンダーソンらしいミニマルな中に収めたエレガンスへと回帰した。クラフトを背景にした物作りでここ数シーズン、パリ・メンズの話題をさらってきたロエベだが、今回は作り込みながらもミニマルなイメージに仕上げている。