《繊研教室 StudyRoom》マストバイよりベストバイ!?
廣瀬知砂子 女性潮流研究所代表
繊研 2015/10/20 日付 19339 号 7 面
7月開催のJFWインターナショナル・ファッション・フェア(JFW‐IFF)セミナーで「これが〝わたし〟の買いたいキモチ~イマドキ女子の マーケティング分析 ~」というテーマで登壇し、このコラムを楽しみにしてくださっている方にお目にかかれうれしかったです。
そこで気づいたのが、私のコラムも06年の夏からスタートし、もう10年! その間にもファッションビジネスの環境は大きく変わったなぁと実感しています。一番感じるのは、ファッションは最も強い自己表現のツールだったのが、そうではなくなってしまったということです。
ユーザーが選び抜く
かつて「私ってこんな人です」と、他人に知らしめるのは、どんなファッションやメークをしているかが重要でした。でも今は、SNS(交流サイト)で以前まで見せられなかったモノも写真でシェアできる時代になり、どんなライフスタイルをしているか、どんな朝ご飯を食べたか、どんな景色を見たか、どんな雑貨に囲まれて暮らしているか――、生活まるごとのセンスで自己表現をする時代なのです。美しい彩りのジュースも、百均を利用したシンプルな収納術も、ミニマルなインテリアも、ファッションは生活そのものに拡大したのです。
だからといって、洋服なんてどうでもいい!という流れになったかというとそうではありません。10年前と比べると確実にオシャレになっているのです。10年前は、モテとかカワイイの全盛期で、オシャレすぎると男の子にモテないのでモードは厳禁。でも今は、モードラバーが増えています。
今年は、涼しくなるのは早かったですが、暑い最中でも秋物のアイテムはどれを買うべきかを話題にする女性が多かったです。秋の定番色「ワインカラー」の話題をする時にも、「今、買うワインカラーはボルドーなのか、バーガンディーなのかマルサラなのか?」を吟味するといったように、プロ目線になっています。
そう!吟味しているのです。
「マストバイ」という言葉がありますが、今の時代は「ベストバイ」という言葉がしっくり来ます。「マストバイ」というと、メーカーやお店やメディアが流行を押しつけているようなイメージですが、「ベストバイ」となると、ユーザーが選び抜いている、そんなイメージになります。
街やショップや雑誌やインスタグラムなどを見ていると、同じようなファッションをしている人が目につきます。例えば、イラストのようなファッション。ガウチョにロングカーデを合わせて、流行のボヘミアンテイストのフリンジ付きのバッグ、メークやネイルにはバーガンディーを差し色に……。
「15年秋のトレンドをキャッチしつつも、やりすぎてイタイ人にはなりたくない。それには、どんなファッションをしたら良いのか?」そうやってベストバイ・コーディネートを考えると、オシャレでありつつ誰からも好感度をもたれる教科書的なファッションに行き着くのです。
自分が主役の着こなし
そういえば、ライフスタイル全般をオシャレにしている代表格のような主婦の友達にこんな質問をされました。「ユニクロがデザイナーと次々コラボするのはなぜ? それも主婦、若い子相手には難しいデザイナーだよね~」と。最近、ルメールやカリーヌ・ロワトフェルドとのコラボブランドを次々に発表しているユニクロですが、ボリュームターゲットたちの反応は薄いようです。
ユニクロは今年になって毎月毎号のように女性誌に広告でなく編集記事に登場していたので、絶好調と思いきや、第4四半期は既存店売上高が前年同期比で4・5%減となり、営業利益も大幅減だったというニュースをみて驚きました。欠品が原因だとも書かれていて、そういえば雑誌やまとめサイトを見て買いに行くと、買いたいアイテムのサイズは品切れという現象、何度もありました。また女性誌で取り上げられていた、無印良品、ユニクロ、ザラですが、無印はナチュラル、ユニクロはプレーン、ザラはモードといったように、それぞれの特徴がはっきりしているので、それを着る人各々が料理できるというところが評価されています。ブランドが主役ではなく、自分が主役のファッションができる、ということ。
もっと言うと、ブランドが前面に出なくて、イタくならない。このイタくない(=浮かない)っていうのが〝今〟の日本市場の最大のニーズです。そこがユニクロの女性市場のヒットの理由と思っていたので、エッジーなブランドコラボで、培ったプレーンなイメージをひっくり返すような戦略、私は驚くと同時にもったいないなぁと思ったのです。ユニクロは世界規模の大きなビジネスで、女子感覚で語るのはおこがましいのですが「ユニクロは恥ずかしい」から、最近の「ユニクロいいでしょ?」にせっかくシフトしたタイミングに、期待(プレーンな方向性)とは違うエッジーな方向に出たので、ブランディングとしてはもったいないなぁと強く思ったのです。
写真=女性潮流研究所「イマドキ女性図鑑№62」から(イラスト:坪川礼奈)