オンワード樫山は4月から、新業態のOMO(オンラインとオフラインの融合)型店舗「オンワード・クローゼットストア/セレクト」の出店を始め、今秋にはさらに10店を出し14店となった。実店舗とグループ公式サイト「オンワード・クローゼット」のメリットを融合した新業態で、自社ブランドの垣根を越えた品揃えに加え、コスメや食品、ディフューザーなど買い付け商品を幅広く揃えている。多様なサービスを併設し、新たな利用体験を提供することで顧客満足度を高めている。これまでのブランドショップと違い、コーディネート提案の幅が広がっており、「お客様との接点が増え、売り場や接客が楽しい」という。
(古川伸広)
ショップによって扱うブランドやカテゴリーは違うが、売り場には「23区」「自由区」「組曲」「アイシービー」「エニィファム」など多数のブランドが並び、ブランドの入れ替えも行う。さらに期間限定スペースではECで販売する「アンクレイブ」や「アンフィーロ」「ハッシュニュアンス」などの限定ブランドも揃え、見て試着して購買できる。多数のブランドやネット限定商品がワンストップで購入できるのが大きな特徴で、実店舗とオンラインの強みを融合し、消費者がより便利に買い物体験ができることで売り上げにつながっている。
実物確認や試着にニーズ
特に好評なのが「クリック&トライ」サービスだ。公式ECサイトにある商品を店舗に取り寄せて試着、購入できるもので、EC限定や店頭にないサイズの商品をパソコンやスマートフォンから簡単に手続きができる。オンワードメンバーズの会員に実施したアンケート(回答者3万1900人、回答数5万2467件)によると、公式通販サイト「オンワード・クローゼットで購入せずに、店頭で購入する理由は」に、42.2%が「実物を確認してから購入したいから」、37%が「試着して購入したいから」と回答している。ネット販売は便利で利用者が増えているが、実店舗へのニーズがうかがえる。
4月にオープンしたららぽーとTOKYO-BAY店では、クリック&トライのリピートも多い。コロナ禍で都心への客足が鈍るなか、「百貨店ブランドやネット限定ブランドが、多様なサイズも取り寄せでき、一カ所で購入できる」と好評だ。第二カンパニー第三営業ディビジョン関東第四セクションの星えりさんは「店頭の全スタッフでクリック&トライを紹介している。ネット限定商品も試せるので、より便利で顧客につなげたい」という。サービスを知らない客には来店時にスタッフがパット片手に一緒にやり取りを行い、サービスをアピールしている。
あえて店にない商品を
スタッフの大橋祥子さんらは、店頭で着る服はあえて店頭にない商品でコーディネートしている。客が「あのスタッフさんの服はどこにありますか」と聞かれることも多く、そこでクリック&トライの出番となる。気になる商品をその場でQRコードから試着及び取り寄せの予約を行う。星さんは「お客様の利便性もあるが、取り寄せは次の来店も促せる。色々なブランドを知ってもらうきっかけにもなり、顧客の土台作り」と重要性を強調する。固定客では微妙なサイズ感のキッズの利用も多いという。
店頭でオンラインを活用
パーソナルスタイリングも顧客満足アップにつながっている。自宅でスタイリストと買い物が楽しめる「オンライン接客」と実店舗での対面でスタイリングが受けられる「サロン接客」があり、客の好きな場所と時間で買い物が楽しめる。オンライン接客ではすでに持っているアイテム(他社ブランドも含め)を画面上に映し、「このアイテムに合うコーディネート商品は」などの使い方をする顧客も。徐々に利用者が増えており、新たな顧客との接点となっている。
ショップスタッフが公式インスタグラムで配信する「スタイリングライブ」も好評だ。動画は同サイトにアーカイブとして残り、いつでも視聴可能。ライブ中に紹介した商品もリストアップして掲載、気になる商品はECサイトでも実店舗でも購買の参考になる。最近では「秋のサマ見え、機能性アイテムをご紹介」「大人が着映える3大アウター図鑑」「リラックスお家コーデ特集」などを週に1回配信。紹介した商品の問い合わせも多い。ほかにもリペアではウエスト補正などの男性客の利用が増えている。実店舗はただ商品を販売するだけではなく、足を運びたくなる、利用したくなるサービス機能が重要になっている。
星さんは百貨店ブランドとSC向けのコーディネートや店舗にない商品も想定した接客ができ、「接客の幅が広がっている。色々なブランドが紹介できる楽しさがある」という。コーディネート提案の幅も広がり、「購買に迷っているお客様に、あと一歩踏み込んで提案できる」ことで、売り上げとコミュニケーションアップにつながっている。
■前川真哉第二カンパニーOMOディビジョン課長
「ブランドの垣根を越えた今までにない提案や、クリック&トライを始めとするサービスを提供することで、お客様それぞれに合った方法でお買い物を楽しんでもらえていると感じています。今後は店舗拡大でより多くのお客様の声を聞きながら、さらに便利な買い物体験を提供し、生活に彩りを与える一部になっていきたいです」
(繊研新聞本紙21年11月12日付)