【連載】進化するオムニチャネル-③

2018/12/31 06:29 更新


■ECと店をつなぐ個人の発信

 大きな発信から、数多くの小さな発信へ――スマートフォンとSNSが浸透した今、デジタル販促の潮流に変化が起こっている。その原動力が、実店舗の販売スタッフ、人の力だ。

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スタッフ活用続々

 EC上のスタッフコーディネート表示や、ブログ、インスタグラムなどSNSを通じて販売スタッフ個人が発信し、ECと実店舗の双方の売り上げにつなげる流れが加速している。バラバラで動いていた個々の発信を画面上で統一管理するなどして連動させ、消費者のアクション、販売スタッフの頑張りと共に可視化する点が特徴だ。16年から先駆的に始めたビームスをはじめ、この1、2年でアーバンリサーチやパルなど、大手企業を中心に導入が進んできた。

 サマンサタバサジャパンリミテッドでも今年3月から、EC上にスタッフコーディネートをアップして、個人インスタとも連動できるようにした。また、公式アプリを6月から稼働、実店舗で接客や購買のあった消費者に限り、販売員個人のアカウントをフォローできるシステムを導入した。フォローのあった消費者へは、販売スタッフからダイレクトにメッセージが送れ、「積極的に入店前接客をすることが可能になった」。店舗ブログも10月からリニューアルし、個人の名前を掲載するほか、紹介商品をECと連動し、売り上げを追跡できるようにした。この結果、デジタル経由で店舗を訪れる客が増加。アプリのフォロワー数なども随時全社に発表するため、モチベーションアップにもつながっている。アプリ発信のメッセージは現在2万メッセージ近くなり、100人を超えるフォロワーがいるスタッフも出てきた。

EC上にスタッフコーディネートをアップ(サマンサタバサジャパンリミテッド)

補完し合う存在

 アダストリアは9月、公式ECであるドットエスティ内のスタッフスタイリングページを刷新、これまでの店単位に加え、個人単位での投稿を可能にし、個人のインスタアカウントも掲載できるようにした。「売り上げ伸び率、商品単価共にすぐに結果が出た」という。

 両社とも、自社の最大の財産は人であるとの認識を再確認しての取り組みだ。圧倒的な集客力を持つEC専業モールに対し、豊富な商品知識と顧客、接客スキルを併せ持つ人=販売員は、差別化できる大きな強みとなる。ECと店が対立構造ではなく、補完し合う存在であるとの認識が進んだことも、一連の動きを活性化させている。

 一方、動きを見える化したことで、評価基準に対する課題も出てきた。店舗接客は優れているがデジタルは苦手というスタッフもおり、まだ手探り状態との声が多い。働き方にも変革が必要との意見もある。リアルとデジタルの双方で、多様性を認めながら、活躍を後押しする施策が必要となりそうだ。

(繊研新聞本紙 2018年10月29日付)



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