縫製工場のオオミスタイル(滋賀県高島市)が初の自社ブランド「ヌノニシタイ」を立ち上げた。第1弾の商品は8号帆布の〝三つ編み〟バッグ。11月に応援購入サービスのマクアケでプロジェクトをスタートした。「開始前は売れるのか不安だった」(中矢佳希専務)が、開始から3時間程度で目標金額の30万円をクリア。12月に入った時点(4日)で応援購入者122人によって総額128万円を超えた。
(小堀真嗣)
琵琶湖生まれ
「持ち手を三つ編みにしたらかわいいかも」。ヌノニシタイのディレクターを務める後川梨愛さんの一言が、三つ編みバッグのアイデアにつながった。持ち手と本体は一体のため、十分な強度を備えた実用性も訴求ポイントだ。素材は琵琶湖の水辺に群生する葦(よし)を活用した織物で、同社と同じ高島市の高麻が開発した「琵琶の葦布」を採用した。琵琶の葦布の帆布作りも同市の駒田織布が協力。原料から縫製まで地域内で完結し、「琵琶湖生まれ」のストーリーを添えた。
同社は25年に創業50周年を迎える。婦人服の縫製を得意としてきたが、衣類生産の海外シフトに伴って00年代から対応アイテムをバッグ、小物雑貨類まで多品種に広げ、技術力と細やかな対応力で難局を乗り切ってきた。そんな同社のチャレンジがヌノニシタイ。先頭に立つのが中矢専務だ。
架け橋になりたい
中矢専務は中矢繁子社長の娘婿で、6年ほど前に入社した。業界未経験で縫製に関する知識もなかった。自身の勉強のために熟練の職人がミシンを操作している手元を撮影しているうちに「身近な服がどのように縫われていくのか、その工程を広く知ってほしい」と考え、縫製業の魅力を伝える動画コンテンツとしてSNSで発信してきた。中矢専務自身も「熟練の職人が工業用ミシンで縫っていくスピード、その技術、仕上がりの美しさに圧倒された」経験があったからだ。
職人技に驚かされた一方で「超熟練職人の給料が、新卒で公務員として働いていた時の給料よりも低かったことにも驚いた」という。技術の価値が「世の中にもっと認められてもいいのではないか」との思いも中矢専務が情報発信に力を入れてきた理由の一つ。ただし、OEM(相手先ブランドによる生産)だけでは情報発信の仕方に限界があったため、直接価値を伝え、提供できる自社ブランドの立ち上げを決めた。
ヌノニシタイというブランド名には「経糸と緯糸が組み合わさって大きな一枚の布になるように、地域のストーリーと人がつながって、人から人へ広がる架け橋になりたい」という思いを込めた。そのストーリーには自分たちのことも含まれている。今後は滋賀にこだわらず、全国にある伝統文化や生産者とつながって商品化していきたい考え。〝三つ編み〟は今後もブランドを象徴するデザインとして生かすという。