アニメや映画の舞台を巡る〝聖地巡礼〟が盛り上がっている。一般的には〝コト消費〟が目立つが、ファッション需要の盛り上がりも注目されるのが、静岡県沼津市だ。テレビアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地として、商店街や地元企業が協力するだけでなく、東京の企業も進出し始めた。作品愛に根差した協業商品などで消費を喚起し、地域を活性化している。
巡礼者に触発され
同作品は廃校の危機にある沼津市内の高校を舞台に、アイドル活動で学校を盛り上げる生徒の青春を描いた人気アニメ。16年に第1期が放映された。以来、沼津市には今も多くの観光客が詰めかける。
JR沼津駅を出ると、まさに〝ラブライブ!一色〟。街中のポスターやパネルがファンを出迎える。火付け役となった店の一つが、創業50年を超えるつじ写真館だ。駅近くのあげつち商店街にある。
「16年ごろ、街中にアニメグッズを身に着けた観光客が急増した」同写真館美容師の峯知美さんはそう話す。アニメの聖地巡礼と知り、「ぜひ作品を応援し歓迎したい」と考えた。
すぐに商店街の会員を集め、作品の鑑賞会や勉強会を開いた。アニメになじみのない年配の店主も多かったが、沼津の街がリアルに描かれる様を見て、徐々にファンになっていった。
商店街で協力して店先にグッズなどを飾るとファンの間で話題を呼び、訪れる客が増えた。各店のスタッフも既に多くがファンで、自然と客との会話が弾み、交流が深まったという。
作品との協業商品の企画も動き始めた。つじ写真館では、カメラマンの辻貴志さんの実家がコーヒー店だったこともあり、キャラクターをイメージしたブレンドのコーヒー豆を販売。作品を深く理解しているからこその企画だった。すぐに口コミで評判となり、定番の土産として知られる存在になった。
人気の雑貨生む
さらに19年にららぽーと沼津に出店したレザーグッズのエイチアンドエイ(東京)の自社ブランド「カルクル」と協業し、キャラクターをあしらったカメラストラップを販売したところ、初回ロットは即完売する人気だった。商品を企画した辻さんは「自分はアメカジマニアでレザー小物が大好きなのもあり、ファングッズになりすぎないアイテムにできた」と話す。現在は帆布のトートバッグなどのファッション雑貨まで協業商品の幅が広がっている。
「自分たちも作品が好きなので、ファン心に寄り添って企画できたのが大きい」と辻さん。地元の人との交流を通して、ファンが沼津そのものを好きになり、リピート率が高いのも強みという。辻さんは「沼津でお金を使いたい、応援したいと言ってくれる方が多い。街での消費自体が体験価値になっている」と分析している。
(高塩夏彦)
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