24年8月にスタートした「ヌーク」は、全商品メイド・イン・ケニアのアパレルブランドだ。代表兼デザイナーの中嶋計介さんは元教員で、見識を広げるためにケニアへ移住した異色の経歴を持つ。現地で出会ったアフリカ文化を、服を通して発信しつつ、雇用拡大などにもつなげようとしている。
(高塩夏彦)
学生時代は全国トップレベルのやり投げの選手だった中嶋さん。保健体育の教員として10年ほど勤めた後、国連職員の妻と出会った。妻がケニアに赴任することになり、自分も世界に出て新しい価値観を学びたいと考え、22年に一緒に移住することを決めた。
キテンゲに引かれ
ケニアでは現地の若い陸上選手のコーチなどをしていた。そうした生活の中、アフリカの伝統的なプリント生地のキテンゲをテーラーに持ち込み、自分の好きな服を仕立てる文化を目にした。「自分は元々洋服が大好き。パワフルな色柄のキテンゲに心を引かれた」
一方で雇用の少なさに苦しむ人が多い現状も目にした。海外からの輸入や支援物資で大量の古着が流入し安価で売られていることで、現地のテーラーの仕事が減るなど、繊維産業も厳しい環境に置かれている。そのため、キテンゲを使った服を現地で仕立て、日本や世界の国々で販売するブランドを構想した。
支援活動ではなく
早速、デザインとパターン作りを独学で学び、現地のテーラーに通い詰めてサンプルを作り始めた。何度も調整を重ねて完成したのが、きものに着想したオーバーサイズのノーカラージャケット。現在も定番で販売している一着だ。
その後、シャツやショーツ、巾着バッグなどの雑貨に商品の幅を広げた。ブランド名のヌークは、趣味の空間などに使う空きスペースを意味する建築用語。「好きなものを表現したい」という思いを込めた。
商品は全て首都ナイロビの小さな工房で生産している。販路は主に期間限定店で、現在は米国に移住した中嶋さんが日本へ帰国した際に、都内のギャラリーなどを借りて販売している。
価格はジャケットが約5万円、トップとショーツが約2万円。中嶋さんは「安売りはせず品質にこだわる。支援活動ではなくビジネス。ブランドとして認められることで、ケニアの繊維産業の地位向上につなげたい」と話す。
生産元が小さな工房のため、いたずらに新型を増やすよりも、今ある型を定番化してじっくりと売っていく考えだ。キテンゲの柄の多様さを生かし、シーズンごとにテーマを決めて生地を集め、既存の型で仕立てるやり方も検討する。
今後は百貨店など人目につきやすい商業施設でも期間限定店を開き、ブランドの認知度を上げたいという。米国での販売も視野に入れる。
中嶋さんは「メイド・イン・ケニアのストーリーをもっと伝えたい。拡販が進み発注が増えれば、現地でもっと人と産業が育つ」と意気込む。