西松屋チェーン大村代表取締役社長COO 〝エブリデイロープライス〟で社会インフラに

2020/11/03 06:30 更新


【パーソン】西松屋チェーン代表取締役社長COO 大村浩一さん 〝エブリデイロープライス〟で社会インフラに

 新型コロナウイルス感染拡大で経済が大打撃を受ける中、西松屋チェーンの好調ぶりが目立っている。前期まで3期連続の減益だったが、19年11月から売上高が全店、既存店ともに回復に転じている。今期(21年2月期)は業績予想を上方修正し、最終利益は前期と比べて5.2倍を見込む。そんな好調の最中、父である大村禎史会長CEO(最高経営責任者)から20年ぶりに社長のバトンを受け継いだ。自身も今年4月に第一子となる男児が誕生。公私ともに新たなスタートを切った若き社長の見据える先を聞いた。

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好業績はコロナ前の改善あってこそ

 ――コロナの影響で好調と言われるのは心外とのことだが。

 減益が続いていたので、社長と二人三脚でなんとか会社を立て直さないとまずいということで、19年1月に社長補佐室長、20年1月に専務に就任しました。在庫コントロールの仕組みや値下げの仕方、仕入れ予算の見直しなどを進め、19年末から20年初めにかけて大体その仕組みが出来上がりました。前期(20年2月期)は大幅減益で着地してしまいましたが、今期は上期から立て直すための準備が出来ていた。そんな中での新型コロナウイルス感染拡大でした。もちろん当社が主とするロードサイドの大型店が、ソーシャルディスタンスが保てるとして来られたお客様も多いですが、改善・改革の仕組みがうまく回り始めたことが大きいと考えています。

 ――改善・改革の具体策は。

 在庫コントロールは、仕入れを決めた商品が海外の工場にあるのか、国内の共同配送センターにあるのか、店舗なのかがバイヤーからトップまで全社的に同じ仕組みで、週次で見られるようにしました。センターに滞留している在庫をすぐ摘発できるようになりました。

 値下げは従来は50%オフ、70%オフなど一気に割引していました。値下げに伴う作業の負担軽減や販促としての分かりやすさもありましたが、値下げする必要のない売れ筋商品が過剰に割り引かれたり、不振品番が晩期まで残ったりなど、過剰在庫が増える傾向にありました。消化日数などを見ながら不振品番を個別に値下げする仕組みに変えました。

 仕入れは、19年度あたりから過剰仕入れが目立ち、夏物、冬物の晩期の値下げが増えていました。これまではボトムアップで予算組みしていましたが、予算部や私が中心になってバイヤーごとに仕入れ予算を決め、全体の仕入れが過剰にならないようにコントロールしました。昨年と比べて5%削減しています。とにかく仕入れて値下げしてでも売っていたのを、仕入れを抑えてプロパー価格で売る時期にしっかり売り、値下げロスで消えてしまっていた利益を確保するという流れに変えました。

 ――主力のTシャツを300円台にするなど価格も下げた。

 今春夏物でTシャツを税込み448円から399円(本体価格)に下げるなどし、秋冬物も継続しています。値下げロスを減らすためにはプロパー価格でしっかり売らなければなりません。投入当初から安く提供することがプロパー消化率を高めるには必要です。コロナ禍の現在はセールでお客様が集まってしまうことよりも、エブリデイロープライスの方が求められています。この傾向は、感染が終息した後も続くと考えます。

 利益は取らなければならないので、原価も下げる必要があります。産地をどんどん開拓していくのが重要です。同じ品質で作れるならば、中国よりもベトナム、バングラデシュなど工賃が安いところに産地を変えていきます。生産地の分散はグローバルに進めていかなければなりません。仮にどこかの国がカントリーリスクで生産、輸入ができなくなっても、他の国に振ることができれば、供給が途絶えることはありません。現在、中国生産が雑貨で9割、衣料で7割ですが、東南アジアや西アジア、将来的にはアフリカ、南米も狙っていきたい。

 1SKU(在庫最小管理単位)あたりの発注量をまとめて、マスのメリットも出していきます。商品を売れ筋になるべく絞っていく努力も必要です。ベーシックでクラシックな商品が中心になっていくでしょう。経営理念も、出来るだけ日常に近い商品をお客様に提供するということを掲げています。トレンドを追いかけるより、どんな人でも気軽に買える商品、どんな時代でも身につけられる商品を提供することが重要と考えています。

店舗の大型化を進め、小学校高学年までが買い物できる品揃えを強化する

国内出店1500店は可能な数字

 ――9月末で1007店。一貫して出店強化を掲げている。

 まだまだいけると思っています。人口10万人に1店舗と考えると、単純計算で約1270店舗。人口が10万人に満たなくても出店できるところはあり、1500店は全然いける数字です。東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、愛知あたりは人口に対して出店数が少ないため、どんどん出店していきたい。関東の人員も強化し、首都圏は純増で出店していきます。コロナ禍によるテナント不足でオファーもいただいていますが、都心でもお子様連れで来店しやすいところ、つまり、上層階ではなくエントランスから入店しやすい場所、広い売り場面積が必要です。吟味しながら選択していきたい。標準の売り場面積は990~1155平方メートルですが、495平方メートルぐらいの小型店も都心には出していきます。ただ、小型店は品揃えに限界があるし、坪単価も高い。小型店は止むを得ずという形になります。首都圏以外でも、既存店が旧来モデルの660平方メートルで、築年数も20年以上が経ち、周辺環境も変わって赤字になっている店舗は、より来店しやすい場所で面積の広い店に置き換えます。

 ――売り場面積を広げることで品揃えに変化は。

 ベビー、子供の商品を服から雑貨までしっかり揃えているかというと、まだ不十分です。小学校中学年から高学年でも買えるような服や靴、かばん、弁当箱など単なるサイズ延長ではない品揃えを強化します。これに連動してPBも強化します。低価格でも満足していただけて、当社としても利益の取れる商品の開発が重要です。売り上げに占めるPBの割合は前期で2割。今期の第1四半期で23%と順調に増えています。年々1.5倍ペースで伸びていて、2、3年後には5割まで持っていきたい。他社との差別化と低価格を実現するためには、それぐらいはやらないといけません。PBは中国、台湾、ベトナムなどの現地の小売店に代理店を通じて販売しています。PBが周知されれば、将来的に海外に出店することになっても、受け入れてもらえるのでは。

 ――ポイント制度など、客の囲い込みには手をつけていない。

 できるだけコストをかけずに価格を安くすることで、お客様に還元してきました。導入するならば、お客様が入会しやすくメリットが感じられ、こちらも購買動向が分析でき、商品開発にも反映させられる仕組みにしたい。来期中に実現できればと思います。

 ――苦戦するECは。

 ECは衛生用品に売れ筋が集中し、収益性に課題を抱えていました。まずは売り上げを落としてでも利益が出る仕組みにします。関東と関西にECの物流センターを構えていましたが、埼玉に集約しました。ECモールへの出店を3減らして7とし、衣料品に強いECモールを残しました。来夏には自社ECをオープンさせます。

 ECと店舗は両輪で、店舗を持つ会社ほどECを伸ばす余地があると考えます。自宅の近くに西松屋がある、西松屋のPBを見たことがある、そういう体験があれば、店舗とECの行き来はシームレスに進むと考えます。顧客管理もECにリンクさせる形で進めていきたい。

 ――日本は少子化。売り上げの天井は。

 日本の子供服市場は1兆円、子供雑貨で2兆円と考えています。極端な話、2兆円が天だと思っています。子供服市場は(ユニクロ、しまむらを含めた)3社の売り上げが全体の2割ですが、2割は業界としてはまだまだ群雄割拠状態です。この勢力図は3年、5年でガラッと変わるでしょう。当社が残っているのかどうか常に危機感を持つ必要があります。

 一方、コロナ禍で淘汰(とうた)が進み、さらにシェアを伸ばすことは十分できます。一つが出店。ECも広げる。日常で使える商品の品揃え、気軽に買える価格と環境という総合力が発揮できたら、少子化の中でも2000億円台まで売り上げを伸ばすことができると考えます。M&A(企業の合併・買収)は具体的にはありませんが、シナジー効果があれば考えていきたい。

 ――アフターコロナにおける未来像は。

 目指すべきところは暮らしを豊かにする社会インフラ的な企業です。コロナが終息しても、また別の災害が起こります。経営理念に掲げている、日常に特化した品揃えを、お客様が気軽に自由に、お客様にとって必要な品質で安く提供するということは、どの時代でも求められるものです。チェーンストアの経験法則をしっかり学びながら、時代に合ったやり方を実現していきたいと考えています。

おおむら・こういち 兵庫県姫路市出身。東京大学法学部卒、「東大レゴ部」立ち上げメンバーの一人。みずほ銀行を経て14年西松屋チェーンに入社。18年経営企画室長、19年取締役執行役員社長補佐室長、20年1月に専務、8月21日付で社長COO(最高執行責任者)に就任。32歳。

■西松屋チェーン

 1956年に宮詣り衣装、出産準備品を扱う「赤ちゃんの西松屋株式会社」を設立。65年から子供服の販売を事業目的に加える。97年に西松屋チェーンに商号変更。2001年に東証一部上場。18年に店舗数が1000店に到達。21年2月期の見通しは売上高1560億円(前期比9.1%増)、営業利益85億円(4.5倍)、経常利益88億円(3.7倍)、純利益56億4800万円(5.2倍)。店舗数は9月末で1007店。

《記者メモ》

 父である会長との違いを聞くと、「若くて元気であること」と笑う。現在はテレビやオンラインで会議を駆使し、「(コロナ流行前よりも)正直、コミュニケーションの頻度が上がった」そうだ。組織もできるだけ直属の部下を増やし、現場との階層を低くして、機動的な動きが取れる体制に変えていくという。「体力があるからこそ、自ら積極的にコミュニケーションを取って、会社を盛り上げていきたい」と力強く話す。

 ユニークなのは、バイヤーやMDなどは自宅の最寄りの店舗に出勤しているという話だ。3密を避けるための対策だったが、自分で仕入れた商品が店でどう並んでいるのか、客がなぜ買うのを止めたのかなどが実感でき、「会社で働いている時よりも自発的に動いている」様子が見て取れるという。プラスの効果があればコロナ終息後も続けていくそうだ。このような柔軟な発想と、自身のリアルな育児経験が合わさることで、現代の子育て世代がより利用しやすい店に進化していくことを楽しみにしている。

(金谷早紀子)

(繊研新聞本紙20年9月25日付)

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