日鉄物産(旧日鉄住金物産)は色つき綿花の研究開発プロジェクトを進める。染色が不要で、サプライチェーンのコストと環境負荷を抑えられる利点がある。大規模栽培できる種子の開発は24年をめどとする。インドのナハールグループが紡績から糸や生地を扱い、ヤギが糸と生地を販売、日鉄物産はヤギから糸を仕入れて製品OEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)を行う構想だ。
(小堀真嗣)
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同プロジェクトは、インドのパンジャブ州立農業大学(PAU)との共同研究で、3月15日に合意した。インド政府の許認可も得ている。研究のベースは東京農工大学の講師である鈴木栄博士の「植物における組織培養技術、色素生合成に関する遺伝子単離・解析技術」。鈴木博士はタバコを用いて研究し、植物の4大色素と言われるカロテノイド(黄、橙、赤など)、ベタレイン(黄、赤など)、フラボノイド(黄、赤、青など)、クロロフィル(緑)を遺伝子に導入し、花弁など特定部位の色付けに成功した。この基礎技術を綿花に応用する。
綿花の色は通常、白。薄い茶色や緑になる種もあるが、品質が安定せず、収穫量は少ない。赤や黄、青など原色に近い綿花はないとされる。研究には日鉄物産が資金援助し、PAUを拠点に行う。PAUは4人の研究員が専任となり、鈴木博士の研究室もサポートする。日鉄物産も3、4人の担当者を置く。
日鉄物産繊維事業本部繊維企画部の河辺浩平イノベーション推進室長は、「研究開発にかける5年という期間は決して長くない」と話す。綿花に色を付けるための遺伝子の導入技術を確立するだけでなく、採取後も色を保つかどうかは品質面で重要なポイントだ。大量栽培のための最適な気候や土壌など生育条件を探索しなければならず、「コストも読めない」。量産開始時には改めてインド政府の許認可が必要となる。様々な課題はあるが、繊維事業本部が目指す「環境に優しいサプライチェーンの構築による社会貢献」に資する取り組みとなる。
綿は繊維・アパレル産業の中で最も需要が多い天然素材。プロジェクトが成功し、コストの壁もクリアできた場合、産業に与える影響は大きいと考えられる。インドにとっても綿産業のサステイナビリティー(持続可能性)と、競争力のある原料(色つき綿花)を活用した製品までのサプライチェーンを訴求できる点で意義がある。