【新年特別号】平成のキーワード ファストファッション

2019/01/19 06:30 更新


 08年9月13日、H&Mが日本1号店を銀座にオープンした。開店前には3000人が並んだ。翌年4月29日、H&Mの原宿店の横にフォーエバー21が1号店をオープンした。開店前にできた2000人の行列はJR原宿駅近くまで達した。

全身コーデが1万円以下で

 ファストファッションの定義は、廉価なトレンド商品を短サイクルで企画・生産し、販売する企業やファッション業界の動きのことだ。代表的な企業がスウェーデンのH&Mや、米ロサンゼルス発のフォーエバー21など。

 彼らが日本に進出した08~09年は、リーマンショック以降、日本の景気が失速し、可処分所得に占めるファッションへの支出は大きく減少していた。「安くておしゃれ」な服を売るには最適なタイミングだった。頭のてっぺんからつま先までフルコーディネートで服や靴、アクセサリーまで買い揃えても1万円でお釣りが来る。しかも可愛い。2社の評判は日本のファッション好きに進出前から伝わっていた。売れ行き不振に悩んでいた日本市場に、ファストファッションが与えた影響は大きかった。

 開店前の行列と価格の安さは、一般マスコミでも広く報じられ、「ファストファッション」は09年の流行語大賞の一つに選ばれた。「安くておしゃれ」で需要を喚起する動きは日本のファッション企業にも広がった。ファーストリテイリングのジーユーは、09年春に990円ジーンズを発売した。

進出後、しばらくは出店するたびに長蛇の列ができた(H&M渋谷店オープニング)

価格と価値の概念が変わる

 消費者の低価格志向にアパレルメーカーも応えようとした。90年代に主流となった、売れ筋商品をクイックレスポンスで店頭に投入する日本型SPA(製造小売業)手法をベースに、自社ブランドで販売する商品の価格を引き下げ、ファストファッション型のブランドを立ち上げるなどの動きが起こった。

 だがトレンドを捉えた商品を廉価でタイムリーに作り、供給する仕組みをグローバルで構築した大手海外勢との体力勝負は続かなかった。ファストファッションと同等の価格帯に挑んだ企業の多くは業績を落とし、倒産した中小専門店もあった。日本企業のファストファッション追随の動きは、11年ごろに収束した。

 本格進出から10年以上が経過し、市場は再び変わりつつある。17年の11月、フォーエバー21は原宿店を、H&Mは銀座店を18年の7月に閉店した。一定の知名度を市場で得た彼らがSCに出店の主軸を移し、高い賃料を強いられる繁華な商業集積地に店を構え続ける意味が薄れたこともあるが、近隣店舗との競合の激化が要因とも考えられる。

 ファストファッションは日本の消費者に「低価格でファッションを楽しむことができる」ことを体感させた一方、「安さだけが価値ではない」との実感も植えつけた。値段を問わずトレンドを捉えていない服、品質を伴わない服は、もはや見向きもされない。

 ファストファッションの台頭は、それまでと違う価格と価値のバランスの概念を日本の消費者が持つきっかけを作った。デザインと品質のレベル、それを実現するためのプロセス、価格の意味が伝わる商品だけが、商品も店もブランドも飽和した市場で勝ち残ることができる。

(繊研新聞本紙1月1日付)

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