【新年特別企画】ファッションビジネス革命前夜

2018/01/01 04:30 更新


変革恐れず、未来を作る テクノロジーとの新たな関係

 ファッションビジネスの世界で、革命が起こりつつある。IoT(モノのインターネット)でビッグデータを集積し、AI(人工知能)で分析、適時にカスタマイズされた商品を消費者に届ける。そんな近未来が迫る。一方で、「AIに仕事を奪われる」「テクノロジーではトレンドを生み出せない」などの恐怖感や拒否反応も目立つ。

 もちろん、現時点で何が正解かは分からないが、急速に進む技術革新を直視し、どう活用するか、自らの成長にどうつなげるかを考えてみたい。テック系のスタートアップ企業からは、「ファッション業界は案外保守的で、デジタル技術の導入に消極的」という声も聞かれる。

 しかし、これまで世の中の動きに敏感だったからこそ成長を続けてきたのがファッション業界。変革を恐れる必要はない。今、目の前にある高度なテクノロジーは、面白く使いこなす人間を待っている。

 未来は私たちの手のなかにある。

破壊的な衝撃

人が服に合わせる時代から、服が人に合わせる時代へ。注目される「ゾゾスーツ」 

 昨年11月に発表された採寸用ボディースーツ「ゾゾスーツ」。リリース直後からネット上では大騒ぎとなった。「繊研センサス・ファッション業界人の実態調査」でも、「ゾゾスーツを試したいと思いますか」との質問に対し、92.9%が「試してみたいと思う」と回答。ファッション業界への影響度合いについては「革命的な動き」「破壊的なインパクト。既存のアパレルの人にはこの大きなインパクトの意味が分からないだろう」といったコメントが相次いだ。

 伸縮センサー内蔵のボディースーツを配布して、スマートフォンと「ブルートゥース」で接続することで人体のあらゆる部位の寸法を瞬時に計測。一人ひとりの体に合わせた商品を作るという発想は衝撃を与えた。ECの弱点を補う発想、ビッグデータの集積、マスカスタマイゼーションという概念も包含し、テクノロジーで全く新たなビジネスモデルを確立しようという象徴的な事例だ。

プロジェクションマッピングと組み合わせたドレスも「ホールガーメント」横編み機で作成

 「テクノロジーで接客を拡張する」。確固たる理念をベースにデジタル技術の導入を推進するパルコ。テクノロジーの活用で既存のビジネスモデルを補完、進化するスキームだ。接客と閉店後はICタグを読み取って棚卸しを補助するロボットを投入したり、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を用いた新たな売り場作りにも積極的で、「常に新たな技術を活用できないかを考えている」。

中小企業も好機

3Dスキャナーを実店舗に導入し、販売に活用する試みもスタートしている(パルコが運営するSR6で、マークスタイラーが開設した直営ECの体験型セレクトショップ「ランウェイチャンネルラボ」)

 スタートトゥデイ、パルコはデジタル技術に関して先進的な企業であり、大手企業だ。しかし、中小企業も、デジタル技術の導入を躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。工場内でスマホやタブレットを持ち込み、稼働状況や検査データを収集することもIoTの一種。AI導入も「月額で派遣社員1人分のコスト程度で済む」(ティファナ・ドットコム)からだ。

 結局、デジタル技術を取り入れるにあたって最も大事なのは、どんな問題があり、何を解決したいか、という意識を明確にすること。「社長にIoTを買ってこいと言われたので買いに来ました」という笑い話もあるが、単純にIoTやAIを取り入れたい、では何も解決しない。テクノロジーを用いて何を改善し、何を生み出したいか。それを明確にすることで自らが進むべき方向性が見えてくる。

 ICタグ、データ解析カメラ、ブルートゥースを「三種の神器」と呼ぶTSIホールディングスが目標に設定しているのが「店舗のデジタル化」。生産面ではAI、ビッグデータを活用し、初回生産の適正化と追加生産の精度を上げている。業務を効率化することで、その分を従業員の給与アップ、ワークライフバランスの向上に充てようと考えている。

IoT関連のイベントはどこも人だかり。関心の高さが実感できる(ET/IoT総合技術展2017)

 デジタル技術の活用の大きなメリットは、業務を効率化して、本来、人間が担うべき仕事に集中すること。言わば人とテクノロジーの共生だ。テクノロジーはあくまでもツール。人間対AI、人対テクノロジーと対立するのではなく、人が人にしかできない仕事、例えば「クリエイションに集中するためにテクノロジーを活用する」という考え方が、これまで以上に大切になる。労働人口の減少に直面する日本にとって、業務の効率化も避けては通れない道。販売スタッフの確保は大きな課題だが、ロボットによる棚卸し業務のサポート、コールセンターでのAI活用などは一つの解決策になるはずだ。

 人間が働く大きな目的は、幸せになること。そのためには、人とテクノロジーが共生して未来を見据え、歩み続けることが欠かせない。

■優れた職人に贈るアワード「ロエベ・クラフト・プライズ」が話題になった。刺繍や手織りなど、手の仕事に焦点が当たった。(右上、17年11月に披露されたファイナリストの作品)■スマホの普及は買い方、売り方を大きく変えた。そして変化のスピードはさらに速くなるだろう(右下)■要らない服はメルカリで売り、海外ブランドサイトで買い物するファッション好きの若者も (左)

<新年特別号>ファッションビジネス革命前夜

繊研新聞は新年特別号で「ファッションビジネス・革命前夜」と題し、進化する技術がもたらす可能性にスポットを当てます。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が発達するなか、それを使いこなして世界を広げる人間の力がますます重要になっています。変革を恐れず、未来を作ろうという人々に迫ります。

「ファッションビジネス革命前夜」は本紙・電子版で



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