【ニュース2021②】人権問題に揺れた新疆綿 政治的対立から不買運動も発生

2021/12/29 06:29 更新


 3月22日、米国とEU(欧州連合)は中国・新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に渡航禁止や資産凍結などの制裁を課した。2日後の24日、中国国内でSNSを通じて、H&Mが20年秋に出した新疆綿の使用停止の声明文が拡散され、現地ECモールや地図アプリでH&Mの商品や店舗が検索できなくなった。

なしでは成立しない

 4月8日、ファーストリテイリングの上期決算会見で、新疆ウイグルの人権問題に関するメディアの質問が相次いだ。同社は「人権問題は非常に大事。やれることはやっている」とした上で、「これ以上の発言は人権問題ではなく政治問題になる」とノーコメントを貫いた。

 4月14日の良品計画の決算会見でも同じ質問が出た。同社も会見では問いに答えず、自社サイトで、「無印良品の綿を栽培する新疆地区の農場に関する詳細情報を把握し、第三者機関を派遣し、昨年も監査を行った。これまでに法令または自社の行動規範に対する重大な違反は確認していない」と説明した。

 7月1日に発表したH&Mの3~5月決算で、中国での売上高は16億2400万 クローナ (約203億円)で3割減少した。突如起こった自社への指弾に抗するためか、3月25日に「いかなる政治的立場も代表していない」との声明を出したが、焼け石に水で、中国の消費者の不買運動は収まらなかった。 

 ファストリの主力であるユニクロは世界2312店のうち、中国に832店があり、海外1502店の55%を占め、その数は日本の810を上回る。無印良品も1002店のうち、中国に299店があり、こちらも海外546店の55%を占める。両社にとって中国は稼ぎ頭の市場だ。

 日本はアパレル輸入浸透率が97.9%に達するが、このうち中国からの輸入が6割を占める。中国の綿花生産量は世界トップの591万トン。うち新疆綿は8割を超え、中国以外の国で紡績、縫製されることも多い。ユニクロ、無印良品だけでなく、日本のアパレル産業全体が、新疆綿なしでは成立しないのが現状だ。

対立より協調が大事

 欧米諸国はその後も中国への制裁の手を緩めていない。その理由は、政治的対立に端を発したけん制ではなく、あくまで「人権問題への対応」とする姿勢を崩さない。中国ではH&M以外にナイキなども不買運動のやり玉に挙げられた。欧米の措置への対抗策とも見えるが、その可能性を示唆する声はあまり多くない。ファストリは10月14日の決算会見で「素材調達の最上流においてもトレーサビリティー(履歴管理)を高めていく」と宣言し、自社のサプライチェーン上で深刻な人権侵害はないとの認識を改めて強調した。「国家が安全保障上の問題で対立しても、経済は対立より協調が大事」(柳井正会長兼社長)。対立に巻き込まれることは日本のアパレル産業の停滞を意味する。

政治的対立のはざまでファッション企業にはサプライチェーンの透明性の一層の向上が求められる(10月14日、ファストリの決算会見)

(繊研新聞本紙21年12月20日付)



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