「シーナウ・バイナウ」がスタート
今年は、世界のデザイナーブランドのビジネスにおいて、ファッションショーをどう位置付けるかが大きく変化した。9月のデザイナーコレクションで、ショーの後からすぐにその商品を売り出す「See now, buy now」(シーナウ・バイナウ)の仕組みが本格的にスタートした。
ショーと流通、時期にずれ
その背景には、デジタルメディアの発達がある。ファッションショーがライブストリーミングで配信されるようになり、これまで最新のファッションショーを直接見る機会がなかったエンドユーザーが、ショーを生中継で見る時代となった。これにより、ショーの時期とその製品が流通する時期のずれを消費者たちが感じるようになった。そのずれを解消するとともに、ファッションショーを売り出しのためのイベントのように位置付ける。それがシーナウ・バイナウの基本的な考え方だ。
従来、コレクションはバイヤーやジャーナリストなどに見せるBtoB(企業間取引)の仕組みだった。ショーの後、展示会でオーダーを集計して半年かけて広告などのキャンペーンを打つ。生産とデリバリーは半年後というものだ。しかし、ショーの翌日から売り始める仕組みだと、その位置付けは大きく変わる。
新しい仕組みを取り入れたのは、ニューヨークやロンドンでコレクションを見せるブランドが多い。一方、パリ・コレクションに参加するブランドの多くは、従来どおり見せて半年後から商品展開する仕組みを継続している。ラグジュアリーブランドの幹部は、これまでの仕組みを変えることで、クオリティーが低下することを懸念している。
顧客とつながり強める
シーナウ・バイナウにシステムを移行したブランドのうち、「トム・フォード」「ラルフローレン」「バーバリー」といった直営店をベースにしているブランドは、比較的スムーズに新システムをスタートさせた。一方、卸ベースをビジネスの主軸とするブランドは、納期の問題などで必ずしもスムーズに移行できていない。
コレクションを販売開始イベントのように位置付けてスタートしたシーナウ・バイナウだが、その内実はさまざまだ。顧客を集めて大々的にショーをしたブランドもあれば、限られたセレブリティーを集めてパーティーのようにしてみせたブランドもある。
中でも興味深いのは、この仕組みが内容次第ではブランドと顧客の信頼関係をより強める可能性を持っていることだ。バーバリーは、コレクションをただ需要喚起のためのツールとして使うのではなく、ショーと関連イベントで自社の物作りの背景を顧客に伝える内容にした。これにより、ブランドの世界をより深く顧客に知ってもらう仕組みを作ろうとしている。
今後は各ブランドが今年の取り組みをベースにして、シーナウ・バイナウの仕組みをそれぞれ発展させていくことになる。