《ファッションビジネス新・成長の条件⑤》理念 会社の存在理由を考える
ユナイテッドアローズ(UA)の子会社コーエンは親会社のセレクトショップ事業とは違う市場を狙い、08年にスタートしたSPA(製造小売業)型専門店だ。郊外SCを中心に出店を拡大し、14年度は売上高が前期比26%増の91億円となった。15年度、16年度も増収だったが、2期連続で減益を強いられた。
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主力客に明確な商品
値引き販売が増え、粗利益率が低下していた。16年度下期からUAの藤澤光徳専務執行役員が陣頭指揮を執り、てこ入れに乗り出した。主力客は40代主婦だが、出店拡大の過程で狙う客層以外に向けた商品が増え、店が誰のためにあるのかが客に伝わりにくくなっていた。
肥大化した品番数を半分に絞った。コア商品はジーンズやシャツなどアメカジだったが、郊外SCにはベーシックに強いユニクロや価格帯でぶつかる他のチェーン専門店も出店していた。手頃な価格は維持しつつ、ワイドパンツやロングフレアスカートなど、程良くトレンドを取り入れた商品を増やした。
主力のターゲットに売るべき商品を明確にして品番を減らすと、店頭で何をいつ、どう売れば良いか分かりやすくなった。シーズンの3カ月前に商品部、販売部、宣伝部が集まり、次に売る商品の生産の進捗(しんちょく)、販促、店での商品の見せ方を話し合って決め、実売の3週間前に再度チェックすることをルール化した。
商品発売のタイミングも店舗とECを同時にした。初速の出るECで数量をしっかり売り、その後ネットで見た客が店で買うというサイクルに沿って商品を販売、プロパー消化率が向上した。結果、17年度上期は既存店売上高が2ケタ増収となり、経常利益も上期ベースで最高益となるなど成果が出た。
誰のための店なのか
18年春はNHKの連続テレビ小説の主演女優を起用し、初のテレビCMを放映した。顧客が子供たちの服もコーエンで買うというデータを得ていた。主婦層に強いメディアを使い、親子2世代需要を狙った。CM放映期間中、映像に登場する商品の在庫を切らさず、店頭でしっかり見せ、売り続けた。
18年度第3四半期(2~10月)までは前年同期比15%増収。てこ入れから1年で業績が回復に転じた理由は、「店は誰のためにあるのか」という問いかけを全ての出発点にしたからだ。昨年、新たな企業理念を策定した。今年2月の全店店長会で発表したスローガンは「すべては、お客様のために」だ。
ファッションのトレンドやニーズは絶え間なく変化するが、ただ時流に合った商品やサービスを考えるだけでは、他社と差別化できない。何のためにあるのか、消費者に伝わらないファッション小売りは選ばれない。市場で埋もれず、成長を続けるには自社の役割を明確にするための理念が重要だ。

(おわり/繊研新聞本紙19年4月2日付)