偉大なるベイリー(若月美奈)

2014/02/17 13:38 更新


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このタイトルを見て、ファッション関係者ならまず、バーバリーのクリストファー・ベイリーが頭に浮かぶかもしれない。チーフ・クリエーティブ・オフィサーの肩書きでデザイナーとして活躍していたかと思えば、昨年末にはなんと、アンジェラ・アーレンツCEO(最高経営責任者)のアップル社への移籍に伴い次期CEOへ就任というびっくりニュース。「偉大なる」という形容もまんざら大げさでもなくなってきた。しかし、今回紹介したいのはもう1人のベイリー、フォトグラファーのデビッド・ベイリーである。

1938年1月ロンドン生まれの76歳。60年はじめにヴォーグ誌でキャリアを積み、その後もファッション撮影やポートレート作品を中心に、ファッション界はもちろん、音楽界、映画界の歴史に残る写真を撮り続けている。この半世紀の英国を代表するフォトグラファーといっても過言ではない。ファッション写真では、少し前の時代ならノーマン・パーキンソン、さらに近年ではマリオ・テスティーノ(彼はペルー出身だが・・・)などの名前もあがるが、はやり現役の大御所といえばベイリーなのである。

しかし、これがあまり知られていない。以前ある日本の雑誌で、カトリーヌ・ドヌーブを紹介する文章に「デビッド・ベイリーという英国人カメラマンと結婚していた」とあった。「という」?、その3文字に目が止まった。「英国人カメラマンのデビッド・ベイリー」ではないのだ。読者がベイリーを知らないという前提の「という」はかなりショックだった。篠山紀信に「という」はつかないだろう。

そう、ベイリーは1965年から72年までドヌーブと結婚していた。彼女は2人目の妻、その後アメリカ人ファッションモデルのマリー・ヘルビンを経て、86年にはモデルのキャサリン・ダイヤーと4度目の結婚をし、現在に至っている。女性関係も、友人であり、いくつもの代表作の被写体となったミック・ジャガーに負けないスーパースターぶりである。

 話を元に戻すが、英国を代表するフォトグラファーであるのに、その活躍が十分に知られていない状況は英国内でも言えるそうだ。そこで、彼の作品を広く一般の人々に向けて紹介しようという展覧会「Bailey’s Stardust(ベイリーズ・スターダスト)」がロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーではじまった。

ベイリー自身が3年かけてアーカイブ写真をテーマ別に整理し、300点を選出。大半をしめるモノクロ写真の多くは新しくハンドプリントした。テーマ別にわかれた部屋の壁にぎっしりと並ぶ写真はどれも迫力がある。

「ファッション・アイコンス・アンド・ビューティー」の部屋には、ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノら英国人デザイナー達の見覚えのある写真が並び、「ザ・ローリング・ストーンズ」の部屋には、ストーンズのメンバーをはじめとるするミュージシャンたち、「アーティスト」のコーナーには、アンディ・ウォーホルやサルバドール・ダリらがいる。フランシス・ベーコンってこんな顔していたんだ、といった発見もあり、アートとしての写真にそれほど興味がない人でも、ミーハー気分で十分楽しめそうだ。

 


手前の写真は2012年撮影のヴィヴィアン・ウエストウッド。奥に、イヴ・サンローラン、トム・フォード、ダイアナ・ヴリーランドなどが並ぶ

  
ザ・ローリング・ストーンズの部屋の正面には何種類ものミック・ジャガーのポートレートが並んでいる。
大きなカラー写真は1973年のアルバム「山羊の頭のスープ」のジャケット用に撮影されたもの
 


1983年撮影のフランシス・ベーコン


そんなテーマ別の展示は、さまざまな年代の写真がミックスされているのに全く違和感がない。半世紀前の写真が古く見えない。それどころか、なぜかとても新しい、というか親近感があり今っぽい。すると、そう思ったとたんに1つの言葉が飛び出してきた。「インスタグラム」。そう、多くの写真が正方形をしているのである。今やフェーイスブックやツイッターを抜く勢いで浸透している写真に特化したSNS、インスタグラムの定型である正方形の写真だ。

その昔、私達世代が紙媒体の仕事を始めた頃は、プロのフォトグラファーによる写真の多くが中判のフィルムで撮影され、その主流が6X6(ロクロク)と呼ばれる、6センチ四方の正方形に収まっていた。それをそのまま正方形で使用したり、トリミングして縦長や横長にプリントしていたのだが、とにかくプロの写真は真四角だった。

今は立派な編集者になっている後輩が4、5年前、ある写真展に展示されていたベタ焼き写真を見て発した「これ何ですか?」の一言には仰天したものだが、デジタル世代の若手はフィルムでお仕事なんてしたことない。ベタ焼きはもちろん、6X6の存在を知る由もないのである。そんな世代にとっては、プロの写真は長方形で、素人写真が正方形なのだろう。

展覧会場の一番奥の大部屋の一角に、6枚のポートレート写真が1つの額に入った一連の作品「ボックス・オブ・ピンナップス」がある。これは時代のアイコンを撮影したベイリーの最初の写真集のタイトルで、グラビア印刷による36枚の写真が箱の中に納められたユニークなスタイルのものだった。そのオリジナルのグラビア写真が、今回は1つの額に6枚ずつ入れられ紹介されている。インスタグラムのホーム画面を連想させるそんな展示から、正方形の写真が奏でるなんとも今風のリズムが伝わってくる。1965年発売。そろそろ半世紀が経過する作品である。

ベイリーズ・スターダスト展。6月1日まで。


  
1965年に発売した当時のアイコンたちの写真集 「ボックス・オブ・ピンナップス」の写真

  
入り口に飾られた2013年撮影のケイト・モス

 
場内には写真に加えていくつかのオブジェも展示されている。アンディ・ウォーホルをモデルにした「Dead Andy」は2008年の作品

 
ギャラリーショップではグッズも販売。
今回の写真集に加え、若かりし日のベイリー本人のポートレートがプリントされたマグカップやバッグもある



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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