マスクなし。ハグで再会を喜ぶ来場者たち。会場入り口を取り巻くパパラッチ。人いきれに沸く深夜のショー。
22年春夏ロンドン・コレクションはフィジカルショーの復活とともに、一気にパンデミック以前に戻った印象を受けた。海外から、とりわけアジアからの来場者は無いに等しく、規模は縮小されたものの、新人たちの単独ショーデビューも相次ぎ、若い才能の祭典ロンドンを印象付けた。
もっとも、海外からの来場者とともに“欠落”していたのが若い来場者の姿だ。デジタルが進み、即時に最新コレクションが見られるようになった昨今、ショー見たさに会場に押しかけるファッション学生の姿が過去のものとなって久しいが、今回は皆無と言えるほどだった。
そんな中、ショーが見たい一心で学校を休んで駆けつけた15歳の男の子がいた。日本人とフランス人のハーフのレオン。12歳の時に「シュプリーム」でファッションに興味を持ち、その後すぐに訪れた日本の店で見た「コムデギャルソン」で、デザイナーファッションの洗礼を受ける。ユーチューブで見た一番好きなショーは2009年の「ナンバーナイン」のラストコレクション。今は漠然とデザイナーになりたいと思っている。
感激したのは「シモーン・ロシャ」と「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」。そう目を輝かせるレオンは今シーズン何を見て、何を感じたのだろうか。
9月19日 日曜日
11:00 エフティシア
—— 最初に見たショーは3日目のエフティシア。その前の2日間はなぜ見なかったの?
見たくてもどこでやっているのかがわからなかった。そうしたところ、エフティシアがインスタに会場を記していたので、そこに行ってみた。
入り口にはまずワクチン接種証明をチェックする係員がいたけれど、16歳未満だからNHS(国民保健サービス)のCOVIDパスは持っていない。代わりに陰性証明が必要ということで、薬局に走って簡易テストキットを買ってその場でテストした。
係員にそれを見せ、陰性だから入れて欲しいと頼んだところ、かわいそうと思ったのか今回はそれでいいと言って入れてくれた。次からはその証明をデジタルで入手するように言われ、それを見せて入るようになった。インビテーションチェックは、ほかの人に紛れて通過した。
—— ショーはどうだった?
はじめてのショー、はじめて生のモデルを見たというだけでなく、あとで振り返ってみても好きなショーだった。シルバーの服を着たダークメークのモデルは美しかった。
その後のショーからは、協会のシャトルバスの係員にスケジュールと会場が記された表を写真撮りさせてもらい、それを見ながらまわることができた。ラッキー。
19:00 SSデイリー
—— 次のSSデイリーはショーというよりお芝居を見ているようなものだったけど、どう思った?
あれっと思ったけれど楽しかった。詩の朗読とかはあまり理解できなかったけれど、1人がピアノを弾いて、他のみんなが机叩いて、その雑音が合わさることで素敵な音になるシーンが好きだった。
事前にインターネットで作品を見たときは、麦わら帽子をかぶって顔を隠したモデルの写真が出てきた。それを見て、ナンバーナインのような世界観を想像して静かにモデルが歩くショーになるのかと思っていたのに、ドドドっとモデルが走ってやって来て驚いた。
—— 今回のショーはワーキングクラス出身のデザイナーが、アッパークラスの人々が通うプライベートスクールを斜に構えて彼なりに表現したショーだった。実際にスクールボーイであるレオンが見てどう思った?
正直なところ、あまりスクールということは感じなかった。プライベートスクールは寄宿制だったり、パーティーとかいっぱいあって、いろいろなドラマがあるのでそれを表現したということはわかったけれど。
9月20日(月)
12:00 ロクサンダ
—— 月曜日だけど学校はどうしたの?
母がファッションウィークに行くので休ませて欲しいという手紙を書いてくれたので、制服を着てそれを持って学校に行ったところ、休みの許可が出た。嘘はつきたくないので、先生には理由をちゃんと伝えたかったけれど、母には嘘をついた。ショーが見られることになったって。
そこで、ロクサンダのショーに行った。中には入れてもらえなかったけれど、ケンジントガーデンズ内のサーペタインギャラリーのパビリオンが会場で、外からでもよく見えた。普通のショーと違って、5、6人が一斉に出て来てダンスをするパフォーマンスだった。
その後、ステファン・クックのショーに駆けつけたけれど、もうはじまっていて見られなかったので、その場に一緒にいたブラジルの雑誌の人たちと一緒に次の会場に向かった。
14:00 ポール&ジョー
——このショーへの移動中に私と知り合った。そしてPRに頼んで一緒に中に入った。メイフェアの素敵なお屋敷で、会場に感動していたね。
それまではギリギリに入って、人がいっぱいのショー会場しか見ていなかったけれど、このショーは早く入ることができ、空っぽのショー会場に座ってなぜかとてもいい気持ちになった。こんな素敵な場所があるんだと感動した。ここで(マスイ)ユウにも出会ったのだけど、雑誌「フルーツ」から飛びたしてきたようなファッションだったね。
15:00 オスマン
——このショーも、うまくするりと入場。そろそろベテランの域に入るオスマンは私は見ていないけれどどうだった?
コレクションは悪くないけど、まあまあって感じ。それよりも、いい席に座っていた女性がショーをほとんど見ないでずっとスマホでメールしていたのは本当にもったいないと思った。信じられない!
18:00 シモーン・ロシャ
——そして、いよいよ一番感激したシモーン・ロシャのショー。これはインビテーションなしで入るのは絶対無理だと思っていたけれど、しっかり入って見ていた。どうやって入ったの?
会場の教会の入り口前にロープが張られ、その右側からプレス、左側からバイヤーが1人ずつ入るようになっていた。これは無理かなと思ったけれど、絶対見たかったので覚悟を決めた。両脇の係の人たちが来場者のチェックで忙しそうな時、真ん中のロープをまたいで中に歩いて行った。声をかけられないように、後ろを振り返らずに淡々と。そうしたら中に入れた。
—— で、ショーはどうだった?
会場の雰囲気も音楽も服も全部大好きだった。あとからネットで写真を見るとバックが暗くて、実際と随分違う。自分の目で見たショーは写真では伝わらないソフトネスを感じた。素材感も違う。モデルも、写真に写っているモデルも本物の人間なのはわかっているけれどそれは本物じゃないって思えた。
—— 今回のコレクションは、シモーンが2人目の娘を出産したばかりで、マタニティーブラを登場させるなど、育児や子供への思いをストレートに表現したものだった。
僕は子供が服を着ているという感じを受けた。例えば結婚式とかで親が子供によそ行きの服を着せると、ぽわんとしたボリュームがあって、着せられているという感じがする。服に負けているっていうのかな。スカートが膨らんだ服や大きな襟のドレスとかも、そういう感じがした。
—— 確かにインスピレーションの1つが小さい女の子がコミュニオン(キリスト教の聖体拝領の儀式)の時に着る白いドレスだから、まさにそんな感じ。
途中から少し強くなって、前シーズンのショーにも出て来たバイカージャケットとかもあった。このスタイルって昔、川久保さんもやっていたよね。前回のショーはデジタルだったけれど、やはり教会が会場だった。
このショーは女の子だけでなく、男の子のモデルもいたでしょ。
—— ショーでは気がつかなかったけど、写真見ると確かに男性のようなモデルがワンピース着ている。でも、PRに確認すると全員女性だった。最近ほんとうにどちらだかわからないモデルがいっぱい。
僕は男の子だと思った。で、このルックはパジャマを着せられている感じがした。それは、赤ちゃんはこれからどんな人間にもなれるっているメッセージかもしれない。赤ちゃんは、優しい人にも、強い人にも、ロマンティックな人にも、どんな人にもなれる可能性がある。このショー全体を見て、それを感じ取った。
20:00 チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ
—— このショーもIDチェックまであってセキュリティー厳しかったけど、私たちに紛れてうまく入り込んだよね。ショーはどうだった?
暗い部屋に人がぎっしり押し寄せて、なんか怖かった。いい怖さ。ストロングな感じ。その中でロンドン市長が見に来ていたのはびっくりした。会場は賑やかで音楽もガンガンで他のショーとは全然違った。最初はシモーン・ロシャを見て、そのすごくいい気分で終わりにしたいと思ったけれど、ラバーボーイを見て本当によかった。行ってなかったら後悔したと思う。
ショーがクレージーだったから正直なところ服は良く覚えていない。暗いし、モデルは足早に通過するし。頭に火が付いたキャンドル乗せたモデルを見た時には、小さくて強いクラスメートの女の子を思い出した。
僕の横にはティックトックで有名な人が立っていた。そんなみんなが同じ場所で同じ音楽聞いて同じショーを見て興奮しているって素晴らしい。すごくインスピレーションを得た。
—— 私はあの会場に入って、90年代グランジ時代のパリのマルタン・マルジェラのショーを思い出した。
僕はあの服やメークを見て、ブリッツクラブを思い出した。ボーイ・ジョージとかその時代。
—— ブリッツクラブって80年代ロンドンの伝説のクラブだけど、なんでそんなの知っているの?
テレビでドキュメンタリーを見た。普通のチャンネルでザ・シンプソンズを見ていたら告知が入って、面白そうだから録画して後で見た。
マルジェラの過去のショーはユーチューブで見ている。ブリス・フォスターというユーチューバーが過去の毎シーズンのショーを解説付きであげている。彼の考えに全て同意できるわけではないけれど、おかげで全部のショーが見られるのは嬉しい。
—— そうやって、過去のいろんなショーがインプットされているの?
僕は最近のショーよりも昔のショーを見るのが好き。みんな毎シーズン新しいアイデアをどんどん出していたから。最近はSNSに向かってのファッション、みんなが好きそうなものに偏っていると思う。昔の方が美しかった。
9月21日(火)
13:00 プロナウンス
—— いよいよ最終日。このショーも私は写真でしか見てないけれど、どうだった?
デザインはユニークだった。でも、何も感じることがなかった。テーマは丸で、リリースを見ると中国のカルチャー、ライフサークルなど丸が持つ意味がいろいろ書かれていたけれど、そのストーリーは感じなかった。服のいろいろな部分が丸く切り抜かれたり、丸がたくさん登場していたけれど、ただそれだけ。
でも、ショーは好きだった。とてもピースフル。音楽も素敵で、芝生の上をふわふわっとした靴でサクッサクッと歩く様子はハッピーな気持ちになった。
15:00 コス
—— これは全然違うもの。春夏ではなく現行シーズンで、デザイナーブランドじゃない。
これもこれで感動した。いろいろなモデルがいて、歳をとったモデルが幸せそうにスーツを着て歩く姿がよかった。
17:00 リチャード・クイン
—— そして今シーズン最後のショー。
嫌いじゃないけど、あまりピンとこなかった。モデルはエイリアンのようで不思議な感じだったけれど、服に新しさを感じなかった。ネオンカラーがあまり好きじゃないということもあるかもしれないけれど。世界観としては、マックイーンの生前最後のショー「Plato's Atlantis」に似ているかもしれない。
—— 結局、時間的に間に合わなかったもの以外は、見に行ったショーは全部見れた。来シーズンも見たい? パリとかも行ってみたい?
来シーズンも絶対見たいけれど、パリはまだ早いと思う。でも、僕の夢は川久保さんのショーを見ること。
東京でやったノワール・ケイ・ニノミヤのショーをネットで見たけれど、みんなマスクして静かに座って、自分の目でちゃんと見ていた。携帯で撮影する人なんていない。そうあるべきだと思う。そう言いながら、僕もいくつかビデオとったりしたけれど、来シーズンは自分の目でもっとしっかり見たい。映像や写真は他でも見られるから。
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員