2018年のロンドンでの取材を振り返ると、それは「サステイナブル(持続可能な)」と「ダイバーシティー(多様性)」に尽きる1年だった。
厳密には2017年の終わり頃からだが、循環型経済を推進するエレン・マッカーサー財団による調査報告書「新繊維経済:ファッションの未来を再設計する」にはじまり、オーガニックコットンを前面に英国でのコレクションを再開したキャサリン・ハムネット。ロンドン・コレクションでも、こぞってアップサイクルを行う新進デザイナーが相次ぎ、色柄形ではなく、どのようにサステイナブルな物作りに取り組んでいるのかが新作のポイントとなった。
12月には、初めてロンドンで「デニム・プルミエール・ヴィジョン」が開催されたが、新作テキスタイルの取材に出向いたはずが、気がつけば、それはサステイナブルの取材と言っても過言ではない状況だった。
一方、ダイバーシティー。人々は皆平等、ファッションはあらゆる人々のためのものという意識が高まり、その象徴であるレインボーカラーが、コレクションを彩った。
昨年12月号から初の黒人男性、そして同性愛者でもあるエドワード・エニンフル編集長が舵を取る英ヴォーグ誌も、様々な肌の色や体型、宗教(ヒジャブをしていたりする)の女性たちを表紙モデルに起用するなど、これまでの価値観を大胆に塗り替えたことは英国ファッション史に残る変化といえる。
もっとも、「サステイナブル」と「ダイバーシティー」はロンドンに限ったことではなく世界的な流れ。では、ロンドン、さらには個人的に今年を総括するキーワードは何か。それは「西」と「王室」と「VW」である。
「西」。これはこのコラムでも再三紹介している西ロンドン(ロンドンは今、西が旬?、ロンドンに登場。ジャパン・ハウスって何?)、具体的にはロンドンの中央に隣り合って鎮座するハイドパークとケンジントンガーデンズという巨大な公園の西南に当たる地区の盛り返しである。
そして「王室」。なんだかんだ王室に関するイベントがが毎年のように行われる英国だが、今年はハリー王子とメーガン妃の結婚。常に多大な経済効果をもたらす王室イベントだが、メーガン妃御用達のバッグ「ストラスベリー」の急浮上や披露宴のドレスをデザインしたステラ・マッカートニーのブライダルコレクションの発売など、ファッション界にも多くのニュースが飛び出した。
そういえば、2月のロンドン・コレクションでは、若手デザイナーのリチャード・クイーンのショーにエリザベス女王がサプライズ登場。ショーを見た後にステージに立ち、女王による新進デザイナー支援の賞をリチャードに授与したというロイヤルトピックもあった。
12月の上旬は忘年会を兼ねたような様々なイベントが毎晩のように開催され、それをはしごするのが恒例だが、少し前までは盛んに「東」へ赴いたものだが、今年は皆無。「西」ばかりだった。
「バーバリー」のパーティー、「モンクレール」の藤原ヒロシとのコラボ商品発売のカクテルといったブランド関係から、「ザ・ファッション・アワード」の授賞式、チェコスロバキア独立100周年を記念したチェコのファッション学生のショー、映画「女王陛下のお気に入り」の衣装プレビュー&カクテルといったものまで、どれだけハイドパークの西南を行ったり来たりしたものか。
「ザ・ファッション・アワード」の今年のサプライズは、メーガン妃の登場で、ウェディングドレスをデザインした「ジバンシィ」のクレア・ワイト・ケラーに英国レディスウエア賞のトロフィーを授与した。
映画「女王陛下のお気に入り」はアン女王(在位1702 - 1707)とその寵愛を取り合う2人の側近の女性の泥まみれな世界をコメディタッチに描いた映画で、日本でも来年2月15日に公開される。英国では1月1日に全国公開とあって、12月初めにジャーナリストや関係者を集めた、衣装プレビュー&カクテルパーティーがアン女王が住んでいたケンジントン宮殿で催された。
そう、まさに「西」と「王室」がタッグを組んだ今年のパーティーシーズンだった。
さて、もう1つのキーワード「VW」とは? もったいぶってすみません。ずばり、ヴィヴィアン・ウエストウッドです。
先ほどさらりと「バーバリー」のパーティーと流したが、実はこれはバーバリーとヴィヴィアン・ウエストウッドのコラボ商品発売に合わせたパーティーで、ホストはリカルド・ティッシとヴィヴィアン・ウエストウッド、そしてヴィヴィアンのパートナーのアンドレアス・クロンターナー。
バーバリーは例年この時期にリージェントストリートの旗艦店で盛大なパーティーを行っているので、ご招待をいただいた時には会場は旗艦店とばかり思っていた。しかし、招待状をよく見ると「西」。キングスロードを一本入った倉庫のようなイベント会場だった。あの歴史に残るキングスロードのヴィヴィアンの店の近くというわけだ。いかにもヴィヴィアンといったドラッグクイーンもたくさん集まり、これまでのバーバリーとはガラリと違うハイパーなイベントとなった。
その3日後に行われた「ザ・ファッション・アワード」では、ヴィヴィアンは今年から新設された社会や環境に前向きな影響力を及ぼした人に与えられる「ポジティブチェンジ賞」を受賞した。
熱帯雨林保護など環境問題を積極的にアピールしていた彼女の矛先は最近、政治へと向いている。マイクを手にしたヴィヴィアンの訴えは延々と続き、このまま終わらないのではないかと心配になり始めた頃、プレゼンターを務めたジェリー・ホールが笑顔でマイクを受け取り、拍手に包まれて退場。こんなことを言ったら失礼だが、いつもながらとてもチャーミングな人である。
ヴィヴィアンは今年の始まりでもあった。
まずはお騒がせニュースから。1月6日から始まったロンドン・メンズコレクションは、著名デザイナーが相次ぎロンドンでの発表をやめる中、ヴィヴィアンはこの時期にメンズとレディスの両方の新作を発表する目玉ブランドとなっていた。ところが、直前になって急遽ショーを取りやめてしまったのだ。
理由は明らかにされていないが、代わりに、限られた人々を集めたカクテルパーティーを開き、ヴィヴィアンの新年の挨拶とインフルエンサーなどが登場する映像の上映でお茶を濁した。コレクション関係者は唖然といった新年の幕開けだった。
3月にはドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」が公開された。公開以前から、息子が異議を唱えているとか、本人がアクティビストとしての部分が少なくて不満を抱いているなど、様々なニュースが流れ、さすが英国を代表するデザイナーの1人であるヴィヴィアンの映画だと思った次第。日本でもこの12月28日に公開される。
映画を実際に見ると、ヴィヴィアン自身が語っている部分が非常に多く、私自身も現場にいたショーの映像も流され、とても身近な気持ちになった。
ヴィヴィアンに最後にインタビューをしたのはもう20年ぐらい前だろうか。いつもそうだったが、その時に起こっている社会問題などについて逆に質問され、私自身が若かったこともあり、なんだか先生にお説教されているような気分になったものだ。その緊張した時間が懐かしい。
そんなこんな、今年は改めてヴィヴィアン・ウエストウッドの存在を思い知る1年だった。
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員