この春、ロンドンはマックイーン祭り(若月美奈)

2015/04/08 15:42 更新


本当に祭りとでも言うっきゃないでしょ、といったはしゃぎぶりである。

3月14日から、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で、2010年に他界した故リー・アレキサンダー・マックイーンの回顧展「アレキサンダー・マックイーン:サヴェージビューティー」がはじまった。

内容については、こちらの記事をご参照いただきたいが、そこにもあるように、同博物館にとって最大規模のファッション展で、1年前から前売り券が発売されるという異例の処置がとられるほど、大きな期待とともに開幕した。

内容的には2011年にニューヨークのメトロポリタン博物館で開催された同名の展覧会をベースにしており、展示室のデザインなども基本的にはオリジナルのものを再現しているが、規模が断然違う。

また、初期の貴重な作品など66点が追加され、その見応えは期待を上回るものとなった。開幕後、パーティーや展示会などで知り合いの業界関係者と会うとまずはこの話題になるが、ほぼ全員が「素晴らしい」と語り、「今まで見た展覧会の中で最高のもの」と絶賛するジャーナリストもいる。


  
サヴェージビューティー展の初期の作品を集めた「ロンドン」コーナー。ニューヨークの展覧会にはなく、新たに加わった見所の1つ

 

この展覧会の開催にあわせ、新聞各紙が特集記事を掲載。様々な関連本が出版され、展覧会やイベントが開かれている。まさにお祭りムードいっぱいというわけだ。

関連展覧会及び出版で是非紹介したいのが、我が親愛なる写真家、ギャリー・ウォーリスによる「マックイーン バックステージ ザ・アーリー・ショーズ」。

マックイーンと同時期にセントマーチン美術大学で学び、「兄弟?(もちろんひと回り大きいマックイーンが兄)」とよく聞かれたギャリーが、初期のファッションショーのバックステージ写真を1冊の本にまとめた貴重な記録で、出版にあわせて4月5日までキングスロードのプラウドギャラリーで展覧会も開催された。

私がギャリーにはじめて会ったのはセントマーチン美術大学の卒展。それ以来ポートレートやバックステージの撮影をお願いしていた20年来の友人で、この本の中には、90年代に繊研新聞に掲載された写真もいくつか載っている。

 


著書を持つギャリー・ウォーリス。後ろに展示されているのはマックイーンが逆立ちした写真。貴重なプライベートショットの1つ


もう1つの写真展はテイトブリテンで開催中の「ニック・ワップリントン/アレキサンダー・マックイーン:ワーキングプロセス」。

昨年発売された同名の写真集の作品を紹介するもので、マックイーンが他界する1年前、つまり秋冬コレクションとしては彼自身が完成させた最後のシーズンとなる09〜10年秋冬コレクション「ザ・ホーン・オブ・プレンティ」の制作過程からショーまでのドキュメンタリー写真が展示されている。

4月30日からは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション内のギャラリーで、マックイーンのショーのメーキャップを紹介する展覧会「ウォーペイント:アレキサンダー・マックーン・アンド・メーキャップ」も始まる。

とまあ、このあたりまでは通常の大型展覧会で見られる関連イベントだが、「祭り」というからには、それでは終わらない。

 例えば、5月12日からセント・ジェームズ劇場で上演される舞台劇「マックイーン」。

マックイーンが08〜09年秋冬コレクション「ザ・ガール・フー・リブド・イン・ザ・ツリー」を発表した時に語った「僕の家の庭には樹齢600年の楡の木がある。そこで物語を作ったんだ。そこに住む少女が王子様に会うために暗闇から抜け出し、王女になる」という言葉をもとにストーリーが作られた。

その少女がある夜マックイーン宅に入り込むところから始まる劇は、少女を捕まえたマックイーンは警察に届けることはぜず、一緒にロンドンを巡り、最終的にその少女は彼の心の中を旅するという物語らしい。

物語や映画、芝居からインスピレーションを得てデザインされるコレクションは多いが、コレクションからインスピレーションを得た芝居は、ドラマティックなコレクションで知られるマックイーンならでは。1年前から騒がれていた展覧会とあって、いろいろなことが準備できるのである。

一方、高級ホテルのクラリッジズでは、「アレキサンダー・マックイーン:サヴェージビューティー」展の入場券と、展覧会に合わせて刊行された本「アレキサンダー・マックイーン」がついた宿泊パッケージを発売した。4月1日から5月17日までの期間限定で、料金は一泊570ポンド(約10万円)から。

このパッケージは、行列に並ぶことなく展覧会が見られるということをウリにしている。ちなみに、この展覧会の前売り券は2ヶ月先まで完売状態で、先日も友人から「見たいけれど売り切れみたい」というメールが届いたが、毎日200枚の当日券を販売しており、並べば見られる。

もっとも、並んですぐにそのまま入場できるわけではなく、その日の時間指定の券を購入して、再び戻ってこなければならない。まあこれを機に、ファッション及びテキスタイル関連の膨大な資料で知られるヴィクトリア&アルバート博物館を見学したり、サウスケンジントンの街を巡るのもいいかもしれない。

そしてもちろん、様々な関連商品も発売されている。ヴィクトリア&アルバート博物館のミュージアムショップでは、マックイーン自身が完成させた最後のコレクションである2010年春夏「プラトーズ・アトランティス」のシリーズと、マックイーンのシグネチャーの1つである「スカル」シリーズのスカーフやバッグ、トレーナー、缶バッジなどを販売している。

また、ビスポークテーラーのアトリエもある「アレキサンダー・マックイーン」のメンズショップのアドレスをつけた「9 サヴィル・ロー」というシリーズでは、裁ちばさみや指ぬき、チャコといったテーラー用品も揃っている。

もっとも、このあたりになると、展覧会については両手放しに褒めていた新聞系のコラムニストも噛み付いた。「思わず3.75ポンドもするチャコを買うところだったわ。チャコなら0.80ポンドで買えるのに」という訳だ。

さらには、「アレキサンダー・マックイーン」ブランド自身も記念スカーフを発売。過去のアイコニックな作品の写真をプリントしたシルク製のもので345ポンド。

とまあ、様々な人々が様々なイベントや作品、商品を企画している。かくいう私も、これを機に過去に執筆したマックイーン関連の記事の中から代表的なものを「アーカイブギャラリー:アレキサンダー・マックイーン」としてまとめてみた。デビューシーズンのインタビューなど貴重な証言もあり。ご興味のある方はこちらをご覧くだされ。



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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