三越伊勢丹HDの社長交代 改革は後戻りできない

2017/03/10 06:45 更新


 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長が3月末で突然辞任することになり、先週末から社内外で動揺が広がった。17年度の役員人事は4日予定していた内示が差し戻しとなり、大西社長と石塚邦雄会長の2人の代表取締役が6月下旬に退任する異常事態となった。

 杉江俊彦取締役専務執行役員が4月1日付で社長に昇格することになったが、混乱は今も続いている。新経営体制は来週にも発表される。(松浦治)

 7日に次期社長を発表した翌朝、伊勢丹新宿本店に姿を現した大西社長はいつもと変わらず、来店した顧客を出迎えた。16年度業績が大幅減益となり、現場の一部で不満が出ていたとはいえ、経営手腕については社内外で高く評価されていた。任期半ばでの退任も「責任はすべて私にある」という一貫した姿勢を崩さなかった。

 08年の経営統合後の事業の整理・再編を経て、大西社長が12年のHD社長就任以降進めてきた改革路線、方向性は間違っていなかったといえる。百貨店の再強化と新規事業の育成は今後の成長に欠かせないからだ。

 11年度にスタートした仕入れ構造改革は商品の独自性と収益の向上に結び付けるのが狙い。自主開発商品が売上高の約15%まで高まり、商品粗利益率が年0・4ポイントずつ改善していた。百貨店の粗利益率は衣料品不振で軒並み低下。三越伊勢丹が16年度の粗利益率で、カードのポイント移行分を差し引いても前年並みを維持しているのは自社開発品の利益貢献が大きい。

 在庫リスクを抱えながらも、定番アイテムの拡大とともに、社外への卸売りなど規模拡大に17年度から本格着手する考えだった。さらに地方・郊外店で深刻化している適時適品不足の解消につなげるシナリオだ。

 仕入れ構造改革と両輪となるのがスタイリスト(販売員)へのインセンティブ(報奨)制度だ。16年4月に導入し、新年度から制度化して拡大する。さらに営業時間の短縮、店休日の設定など働き方改革にも乗り出していた。いずれも現場第一主義の大西社長自ら発案し、強力に推し進めた。

 しかし、改革のテンポとスピードを上回る「衣料品不況」が直撃した。全国百貨店売上高の推移を見ると、16年の衣料品売り上げは14年に比べて2000億円減った。この2年で大手アパレル1社の国内売上高を大幅に上回る規模が縮小したことになる。同様に三越伊勢丹の婦人服売り上げはこの2年で100億円縮小した。全国百貨店の店舗数は今後も年10店程度の閉鎖が続くという見方が多い。

 百貨店、大手アパレルメーカーの旧来のビジネスモデルが成り立たなくなったのは明らかだ。百貨店の売り上げが伸びない中で、仕入れ構造改革による差益率の向上に力を入れたのは「現場の販売力を落とさず、利益を上げる」という百貨店事業の立て直しに執着したからだ。

 一方で、飲食、婚礼、美容などの領域で新規事業を外部企業と連携しながら、ここ3年で次々立ち上げた。すぐに収益に結び付かなくても成長の種をまくことで20年度までに業績に反映する方針だった。「百貨店の規模が縮小しても企業として縮小してはならない」という危機感からだった。

 売上高1兆2500億円の巨大百貨店グループを1人の強力なリーダーシップで率いていくのには限界がある。杉江HD社長による新体制で経営と執行の権限を1人に集中すれば、環境の激変に対応することが難しい。今よりも経営と執行を明確に分けた経営手法も選択肢になる。大西社長は8日、「今の30~40代がマネジメントする5年後はすごく良い会社になる」と話していた。百貨店改革は後戻りできない。会社を変えていくのは若い力であるべきだ。

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店頭に立って顧客を迎える大西社長(伊勢丹新宿本店、8日朝)


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