《めてみみ》バラの輝き

2023/07/20 06:25 更新


 「みづからの光のごとき明るさをささげて咲けりくれなゐの薔薇」。昭和の歌壇をリードした歌人、佐藤佐太郎の一首だ。昭和23年(1948年)の作で、第5歌集『帰潮』に収められている。この年の6月、佐太郎が主宰した歌誌『歩道』はガリ版刷りから活版印刷になった。

 人々が食べることで精いっぱいだった戦後。それでも昭和21年4月の総選挙で初めて婦人参政権が行使され、同年11月には新しい憲法も生まれた。困難な中にも、既に新しい雰囲気が満ちていたのが昭和23年なのだろう。戦時中なら「非国民」とされたバラの花の展示会が東京・銀座で開かれ、にぎわったとの記録も残る。

 そんな年の7月20日、繊研新聞社の前身、財団法人日本繊維経済研究所は設立された。いち早く復興へと向かった繊維産業を追い始めてから75年。本日付の2万1149号まで1度も欠号を出さず、新聞を発行して来られたのは、読者をはじめ、取材先や広告主、印刷から配送に至るまで関係する皆様のご協力にほかならない。心より感謝申し上げる。

 繊維・ファッション業界の「目」となり、「手」となり、「耳」となれ。社是の「めてみみ」精神は働いているだろうか。自らを顧みながら、今後も磨いていきたい。バラの輝きに時代の息吹も感じさせる名歌のように、愛され続ける媒体を目指して。

バラの輝き


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