山下達郎が11年ぶりの新譜を出した。プロモーションで同氏が受けたインタビューを色々なメディアで読むことができる。50年近いキャリアのアーティストが、音楽制作に対するスタンスを語る内容がとても興味深い。
自身の音楽を「ミドル・オブ・ザ・ロード・ミュージック」と表現していた。過去のインタビューにもある言葉だが、誰が耳にしても何かしら心に引っ掛かり、好きになる。「入り口のたくさんある音楽」のことだ。
確かに同氏の作品は、過去のアルバムから、他のアーティストやアイドルに提供した楽曲、テレビCMのために制作した音源まで、聞き返すとどれも常に耳に心地よい。
バンドで活動を開始した70年代は、そのポップな作風があまり評価されず、本格的な人気を集めるようになったのはソロ活動を本格化した80年代に入ってから。その音楽に設定されたいくつもの入り口に聴衆が気づくのに10年かかったわけだ。
そのせいなのか、同氏の曲にはロングセラーや周期的にブームになるものが多い。近年は「シティーポップ」と呼ばれる日本特有の音楽ジャンルの草分けとして海外でも人気だ。軸をぶらさず、丁寧に作るから、魅力が減衰せず響く。トレンドだけだと一過性で終わるが、スタイルとして確立できれば、長く支持される点で、音楽は服の商売に似ている。