「購買意欲はあるようだが、買うまでいかない。着ていく場面がないのが理由」。大学生が主力客層のメンズセレクト店の販売員が話していた。ターミナル立地の館の上層階にあり、来店客数は大きく減少した。加えて、来店してもフィニッシュ(購買)までいかないことに悩んでいる。
あるSCのロールプレイングコンテストでの客役の演技にも、同様の傾向を感じた。義母と久しぶりに近隣に出掛ける。オンラインピアノ発表会で着る。仕事を頑張っている後輩への手土産――などリアルな設定のためか、来店目的が〝小さくなった〟と思う。コロナ禍による行動変容が消費に与える影響はやはり大きい。
物欲(消費)の背景にあるのは、所有価値や資産価値、使用価値。美術や宝飾、時計、ラグジュアリーブランドなどの高額品が好調なのは所有や資産価値が高いためだろう。一方で、季節を重視するファッションは使用価値の比重が高く、着用シーンが需要を生み出す。
着用シーンの汎用性を提案する。あるいは物の良さ=所有価値を訴求する。ロープレを見ていて、そんな対応策が浮かんだ。冒頭のセレクト店が考えているのは、関係性の価値を高めることのようだ。「顧客作りは未来への投資」(本紙20年11月30日付)。「ルイ・ヴィトン」の元トップ販売員の土井美和さんの言葉を思い出した。