家の整理中に直径40センチぐらいのうちわが出てきた。昨年の夏に中国・大連で買ったものだ。シュロの葉を扇状にカットし、茎の部分を持ち手にしてある。最後に葉の外側を半円状に布とテープと糸で縫ったシンプルな作り。少し重いのが難点だが、意外に強い風を起こす。
大連は中国でも屈指の風光明媚(めいび)な街。日本企業の進出も盛んだ。行き交う人々のファッションセンスも進んでいる。そんな時代の先端を行く街のなかに、手作りうちわを背負い、かごに満載した裸のお爺さんがやってきた。恐らく数千年前から変わらない光景だろう。近代的な街との対比が面白く、2、3元で買ったと記憶する。
よく考えれば、時代の先端を行く道具である。原料は自然の葉1枚と若干の布と糸だけ。世の大半を占めるプラスチック製のうちわと違い、廃棄しても土に返るし、電気代も不要。工場に出勤しなくても、自宅での生産が可能だ。
そろそろと秋の訪れを感じるという「処暑」も先週末に過ぎたが、現実は真夏に近い猛暑が続く。コロナ禍も収まる気配はない。いち早くコロナ禍から抜けた感のある中国だが、大連でも7月末に感染者が増え、一時騒然となった。夏休み気分も終わり、ビジネスも本番。秋風が吹き、うちわが要らなくなる頃に明るい兆しが見え始めることを祈りたい。