「穴熊経営者になるな」。一代で海外にも拠点を持つ企業を育て上げた経営者が30年ほど前に発した言葉を思い出した。最年少タイトルをかけた熱戦を続けた高校生棋士、藤井聡太七段の活躍があったからだ。7月19日の誕生日で18歳になったばかり。最年少記録の更新が話題になった棋聖戦だけでなく、長時間にわたって頭脳を使い続ける棋士の姿に、にわかファンは圧倒され続けた。
穴熊経営者の由来を将棋の穴熊囲いという戦法だと思っていた。先の経営者の説明も好きな将棋を例えにしていたからだが、改めて調べると、穴熊囲いや穴熊戦法は堅い守りを指しこそすれ、マイナスの意味合いはあまりない。王将を囲うまでに時間がかかるのが難点のようだが。
動物のアナグマが巣穴にこもる様子が、社長室から出ずに環境の変化を認知できない経営者を戒めるものとして使われた経緯もあるようだ。バブル景気の余波が残り、経済は拡大するものと疑わなかった頃だ。
インターネットがあれば社長室の中にこもり続けても情報は入手できるし、社員や取引先ともつながれる時代になった。厳しいコロナ禍だが、守りに入ってはいけないことだけは確か。どんな戦法を取ったらよいのか、棋士のように全力で頭脳を振り絞り、穴熊経営者にならない道を選びたい。藤井七段のように若くなくても。