《めてみみ》福音か黒船か

2019/12/18 06:24 更新


JR鯖江駅前のオブジェ

 福井県の鯖江市と言えば眼鏡だ。JR鯖江駅から東に10分ほど歩けば、めがねミュージアムがある。めがね博物館や3000本以上の商品が並ぶショップ、体験工房などを備え、1階には眼鏡産業を興した増永五左衛門の胸像が鎮座する。

 冬になると雪深い地である。何とか農閑期の仕事を作ろうと、大阪に出ていた弟とともに、大阪の職人を招いて一から産業を興した。スタートは1905年、ちょうど日露戦争のころ。戦況を知りたい国民を背景に、新聞をはじめとする活字文化が花開いた時代である。眼鏡作りも鯖江にとどまらず、福井市へと一気にひろがっていく。

 やがて興隆期を過ぎ、アジア勢の追い上げや輸入品との競合、リーズナブル価格を売り物にした大型チェーン店の台頭、小さな小売店の縮小と、衣料とほぼ同じ流れを鯖江もたどる。一方で環境は厳しいが、志を保ち産地を守ろうとする企業が当然あり、眼鏡にこだわる消費者も一定これを支えている。

 そうしたなかで昨年、ミラノに本拠を置く世界最大の眼鏡メーカー、ルックスオティカグループが鯖江の企業を買収、新工場を建設している。特にチタン加工技術を高く評価したようだ。メイド・イン・ジャパンの技術への評価と喜ぶか、巨大な黒船が来たと見るか。増永翁の顔を見ながら、複雑な思いに駆られる。



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