100年以上の歴史がある靴ブランドの展示会を取材した。毎シーズン、腕利きの職人が良い革を使って技術を凝らし、見た目に優雅で、その分、値も張る革靴を作っているのだが、今回は新商品の顔触れがぐっと変わっていた。
来春夏に向けた新作の中には、優れた技巧を駆使した本格靴もあるが、硬くてどうしても着用場面が限られるレザーソールに代わってラバーソールにした靴やカラフルなスニーカーもあった。
ネクタイを締めて仕事をするのが当たり前だった時代には文字通り「足元を見られる」ことを考え、社会人になり、ある程度の年齢が来れば、良い革靴を所望するようになり、それがそのブランドの新しい顧客になっていたそうだ。
だが今や、お堅い職業の筆頭である銀行ですら、服装の自由化に踏み切る世の中になった。職業服としてのスーツが高級品から量販品まで数が昔ほど売れなくなったのと同様、スーツに合う革靴も同じ道をたどっている。
ただ、そのブランドがゴムのソールの革靴やスニーカーまで作り始めたのは、スーツを着ない若い世代のファンを増やしたいばかりではなく、年を重ねた顧客がリタイアし、スーツを着る用事が減ったことも関係している。新旧双方のニーズの変化を捉えられなければ、世代を超えて続くブランドにはなれないらしい。