《めてみみ》受け継がれる思い

2019/02/06 06:24 更新


 正式な鑑定結果を聞いたわけではないので、ここでは仮名にしておく。メーカーA社には、家宝が一つある。明治天皇が使用したというワイシャツと靴下だ。百数十年は経ていると思われるが、状態は非常に良い。どこかの博物館にあってもおかしくない逸品である。

 衣料メーカーだけに、同社が皇室に納入した商品かと思ったが、そうではなかった。A社に伝わるまで、間に2人の人物が関与している。最初は皇室の女官長だった方が下賜(かし)され、その後旧日本軍のある将官の家に伝わった。さらにその将官の子息から、A社の創業者に譲られた。

 その際、「このままではいつか、貴重な品が散逸してしまう。Aさんの家なら代々これを大事にしてもらえると思う」との言葉があったらしい。先方の気持ちを厳粛に受け止めようと、A社では創業者から3代目までが、きちんと並んで品物を受け取ったという。

 衣料品業界、特に国内に主軸を置くメーカーの経営環境はさらに厳しく、継承が大きな問題になっている。創業から時間が経てば、祖業に対する思いも薄れがちだ。それでもなお、家業を継ぐ決意をした人々が日本の物作りをギリギリのところで支えている。理由は様々だが、やはり「祖父母や父母の苦労する姿を見てきたから…」が多い。世代を次いで受け継がれる思いこそ大きな宝物だ。


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