都心の百貨店やファッションビルに、ベビーカーを押す女性がずいぶん増えた。十数年前は、全く見かけなかった光景だ。当時は、子育てファミリーと言えば郊外型SC。一家総出で車で向かい、ワンストップでショッピングと時間消費型レジャーを楽しめることが、郊外型SCのコンセプトでもあった。
一方、当時の都心施設は、ヤング・OLからミセス層のファッション購入を第一義としていたはず。今、都心施設で客層の幅が広がっているのは、モノの入れ替えだけでなく、通路幅の拡大、遊び場や休憩室の設置といった施設環境の整備、多彩なイベントの実施など、施設側の多面的な取り組みの成果による。
時間はかかっても、客層や購買行動を変えることは可能なのだ。百貨店の長年の課題である「食」と「服」の買い回り性の向上も同じ。婦人ファッションフロアの中央部に食物販と生活雑貨を組み合わせた編集売り場を配し、購買客数増やファッションの活性化につなげた実例もある。
百貨店の定番的なフロア構成は過去の経験から生まれ、その構成に準じて組織も構築されてきた。買い回りの向上が課題なら、フロア構成や運営組織の見直しも必要ではないか。「〝無段階〟に変化できることが小売業の一番の魅力」。数年前に聞いた、ある投資会社の社長の言葉が忘れられない。