《めてみみ》いなたい服

2018/06/12 05:57 更新


Casimiro PT / Shutterstock.com

 セレクトショップの18~19年秋冬展示会を取材して回っていて、カジュアル分野の企画担当者やバイヤーが「いなたい」という言い方で自社のスタイリングの特徴を説明する場面が何度かあった。

 この言葉、語源には諸説あるが、自分が記憶する限りでは、もともと音楽関係者が、曲やアーティストについて「泥臭いが、何か格好良い」とか「うまくはないけど味わいがある」といった意味で評価する際に使うものだったと思う。

 ミュージシャン特有の言い回しが発祥とおぼしきこの表現はその後、音だけではなく場所や店、物の色や柄、誰かのたたずまいについても「やぼったいが、なんだかイケてる気がする」というニュアンスを伝えたいときに用いられるようになった。

 服に関してこの言い方をする人が増えたのは、ここ数シーズンのことで、股上の深いジーンズにゆるめのTシャツ、少し前まで誰も見向きしなかった90年代の古着などがトレンドになってきた時期と重なる。父親が履くような不恰好なスニーカーを指す「ダッドシューズ」が売れるのも、その典型だろう。

 分かりやすく、形が整ったものではなく、あえてダサいとされるものでおしゃれしてみる。いなたい服を売ろうとする店が増えるのは、ストレートな格好良さを、格好悪いと感じる人が多くなっているからかもしれない。




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