劇作家や演出家、テレビのパーソナリティーなど多彩な活躍を見せる鴻上尚史氏。昨年末、『不死身の特攻兵』というノンフィクションを出版した。テレビ画面での軽妙なトークとは異なり、重く読み応えのある内容で、今も増刷を重ねている。
特攻は特別攻撃隊の略。太平洋戦争末期に爆弾を抱いた飛行機などが、搭乗員と共に突っ込んでいった。もちろん搭乗員は自爆する。同書の主人公・佐々木友次氏は、タイトル通り、9回特攻に出撃しながら全て生きて戻ってきた。時に通常の戦法通りに爆弾を落とし、時に不時着を選んだ。当時の世相を考えれば大変なことである。実際、戻るたびにすさまじい罵倒を受けた。
簡単に死ぬなという父の言葉、大好きな愛機と自爆したくない思い。それらが支えになったという。佐々木さんらを死なせまいとした一部上官の存在も大きかったようだ。ただ、何よりも時代の空気に流されない芯の強さが本人にあったように感じる。
現代との比較は意味がないかもしれない。とはいえ、日々のビジネスの場面でも、忖度(そんたく)したり、大勢に流されたりする場面は多いもの。経営環境が激変するなか、型にはまらない個性的な人材や独創的な意見を求める企業が増えてきた。それがいかに難しく、人間としての強さが必要なことかを教えてくれる一冊だ。