あるメンズのインポート卸は、客層の異なる二つの専門店に伊ブランドのスーツを売っている。双方とも同じ40~50歳くらいの男性向けの店だ。一方のコンセプトは「モテ」で、女性受けが気になる客向けの、ぎらついた服が主力。
もう1店は「堅実見え」が売りで、トラッドに親しんだ、スーツをきちんと着こなしたい大人向きのドレスやカジュアルの服を売っている。ところが2店が毎シーズン仕入れるのは、同じブランドの、基本的には同じ品番の商品が多い。
実際に見ると、色や仕様の別注で微差はあるが、同じ形で、着心地も価格も一緒。両方とも普通に仕事で使えそうで、どちらの店向けなのか見分けが付かない。
後日、両方の店に行ってみると「モテ」の店では派手な色や柄のシャツやタイと合わせていかにも遊び着風にディスプレーしていた。「堅実」の店は接客で客のニーズを聞き出し、普段仕事で着るシャツやタイに合わせたときを想定して同じブランドを薦めていた。
インポート卸の営業マンいわく「別注で仕様を変えるのは実はポイントではない」。どんな風に見せて、どんな客に買ってもらおうとしているか、店の姿勢しだいで同じブランドが「モテ」にも「堅実」にも変わる。こういう話を聞くと、リアルの店にも客に響かせるための工夫の余地はまだ残されているように思う。