昨年の大阪アジアン映画祭で観客賞を受賞し、その後日本各地でも公開された台湾映画が「湾生回家」。戦前の台湾で生まれた日本人が〝故郷〟を訪ねるドキュメンタリー映画だ。年少者でも既に80歳を超えた老人たちが、旧友と交流する姿が淡々と描かれる。比較的政治色が薄い分、逆に老人たちの思いが伝わってくる。
映画の中でも出てきた台湾の東海岸を回る機会が今春あった。タロコ渓谷をはじめ、有名な観光地もあるが、海沿いの大半は太平洋に面す断崖絶壁。福建省などからの移民で早くから開けた西海岸とは全く異なる風景である。
中心都市である花蓮の近くには、旧豊田村、旧林田村など、かつて日本人が入植した地域がある。今や面影はほとんどないが、それでも所々に70年以上前の日本家屋やインフラの跡が残っていたりする。
ここでは日本人が本当の荒地から農地を切り開いていったケースが多い。無理な土地収用が少なかったせいか、他地域以上に親日家が多い。最近は古い日本家屋をリノベーションし、ショップやカフェを起業する若い台湾人たちも出てきた。
5月の大型連休、日本人の海外渡航先は台湾が引き続きトップだった。相互交流はさらに増えていくだろう。悲しい時代をきちんと胸に刻みながら、新たな日台の良い関係を築いていかなければいけない。