フリマアプリ「メルカリ」が登場して5年以上が経ち、月間のアクティブユーザーは1000万人を超えた。消費者は売ることを前提に新品を買い、中古への抵抗感は薄まった。自分で価格を決めて販売できることで、〝たんす在庫〟が資産に変わる。売り上げを得ると同時に、保管スペースも空く。その余力がまた、納得できる〝メルカリ相場〟価格で次の商品を買うという消費も生んでいる。
実店舗かECの二択だった買い物の選択肢にメルカリが加わり、大きなインフラになろうとしている。メルカリ利用者に関する様々なデータから、メルカリ消費を読み解く。
(藤川友樹)
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担当者はこう見る 「メルカリで検索」が浸透
現在メルカリの流通額のカテゴリー別構成比はレディスは24%、メンズ15%、コスメ8%で、最近はコスメが伸びています。
ユニクロが両方で1位になったことには驚きましたが、上位は想定内でした。メルカリで初めてユニクロを知る人はいません。圧倒的な認知で、誰もが購入したことがあり、自分のサイズを知っています。
ファストファッションのランクインは、1次流通の量が大きいのもあるでしょうね。コラボ商品などはすぐに売り切れてメルカリで検索する人が多いです。また商品の入れ替わりが激しく、店ごとにMDが異なるので、買えなかった場合の救済策にもなっていますね。
子供服はメルカリで買って売るのが顕著です。着られる期間が限られますし、むしろ新品だと常に汚さないか気を配るストレスもあるようです。「セット売り」や、おさがりをいただく感覚で特定の人から商品を買い続けるユーザーもいます。
ハイブランドはコスメも含まれるので上位に入りやすくなっていますね。バッグなどは、お試しで中古を買い、気に入れば新品を購入する利用が目立ちます。メルカリがそうしたブランドとの着火点になれれば。
ランクインしたブランドの共通点は、品質も含めたブランド価値向上に取り組んでいることではないでしょうか。ユーザーへのインタビューでもそうした声がよく聞かれます。
トレンドワードランキングは、ユーチューバーが紹介した「アルミ玉」を筆頭に、ネットやSNSで話題になったものばかり。その話題を単に面白いで終わらせるのではなく、普通は売っていないようなものでも「もしかしたらメルカリにあるかも」「いくらで売れるんだろう」と、消費者がメルカリで検索する行動が浸透してきています。
人生経験があるほど使いやすい 【編集者・50代】
メルカリを使い始めたのは7カ月ほど前です。モノの購入というより、家の断捨離のためでした。50歳を超えていますが、スマホをいじるのも好きでアプリは入れていました。なので、始めるのに抵抗はありませんでした。
なんでも売れる
段ボールに詰めて送るだけで買い取り査定される別のサービスの方が楽は楽ですが、過去の経験からどうせ雀の涙ほどの買い取り額しか出ないので、メルカリは遊び半分で始めましたね。
編集の仕事をしているので、撮影の工夫も最初は楽しかったですね。出品作業も簡単なんで、自然光で撮れる天気のいい週末に家のデッキの上でまとめて撮りだめして、夜にテレビを見ながら出品を繰り返しています。
売っているのはほとんど洋服です。嫁のモノが7割ぐらいでしょうか。トップからボトム、アウター、靴、帽子までほぼトータルです。最初の値付けは強気で、売れたらラッキーみたいな。で、動きが悪かったら徐々に値を下げていきます。ただ、いいね、がついていないものはほっておきます。ついてないと値下げに気づいてもらえませんからね。同じ商品ならメルカリで価格をチェックして少し下げて売っちゃいます。
注意しないと意外に配送料がかさむので、配送方法はいつも迷いますね。特に大きいものは。メンズのコートなどのアウターは、古い米袋を使っています。ホームセンターで20円ぐらいで売っているので。これでうまく、100センチ(縦+横+高さの計)におさめると割と安く済みます。もらった人は、えって感じかもしれませんが(笑)。
あと、なんでも売れるな、と思ったのは古いフィルムのカメラが売れた時です。名機と呼ばれていたペンタックスですが、ほとんどジャンク。でも、3000円で売れました。コンタックスのフィルムカメラもあるので、今出品準備中です。20年以上前のGショックもいくつかあるので、これも動作確認してから出品します。時計も割と売れるんで。
出会っちゃう
100点ほど出品して85点ほど売れているので、ちょっとした小遣いにはなっています。15万円ほどになりましたでしょうか。ある程度で止めようかと思っていたのですが、夏の時期に夏の物を目一杯だせなかったので、当分続けていく予定です。評価もおかげさまで5スターです。
ただ、問題もあって。断捨離目的で始めたのにもかかわらず、販売金でまた買い物を始めてしまったのです。いい年なので、洋服体験は少なくないじゃないですか。「ヴィレッジバンガード」じゃないですが、“出合っちゃう”ので、ついついポチってしまうんです。今だとコンバースのスニーカー。ちょっと変わったプリントのものとかが結構色々あって。3500円以下、27センチという検索条件を保存しているので、メールが来るたびにアプリを開いては確認しています。
あと、最近では書籍も購入し始めました。ベストセラー以外のマイナーなものもまあまああったりするので便利ですね。今までアマゾン一択だったのに、メルカリでチェックした方が安い場合も多いのでメルカリで買うことが増えました。
人生経験のある人の方がモノへの執着は多いので使い勝手のいいサービスだと思いますよ。ちょっと面倒だと感じる時もありますけど。
ユニクロ、GUは定価より高く売れます【主婦・30代】
ユニクロ、GUは意外と売れるんです。ニットやカットソーなどを愛用していて、まず新品をオンラインで購入します。でも、サイズや色は実際に自分の目で見て確かめたい。そこで、ECではいろんなバリエーションをまとめて注文して家で試着。イメージと違えばメルカリで売る、という流れです。
2倍で取引も
定価をちょっと上回る価格で売れるので、損もしません。もし仮にメルカリで売れなかったとしても、ユニクロなら3カ月、GUなら1カ月は返品できるので、焦ることもないですね。
購入する人は地方住まいだったりして、そもそも店がなかったり、交通費を出すのがもったいない人が多いんだと思います。ECで買うにも単品だと送料がかかります。それを考えると、定価より少し高くても、メルカリで買う方が安いんです。
品薄になることがあるのも影響しているのだと思います。インスタグラムを観察していると、〝ユニクロコーデ〟とハッシュタグをつけて同じアイテムを着用しているインスタグラマーがたくさんいます。紹介されたアイテムはECや店で品切れになっていることも多く、メルカリで検索しているのだと思います。「ユニクロコーデセット」にしてまとめて販売している人もたまにいます。予約販売で完売した商品なんかは、メルカリで定価の2倍の価格で取引されていることもありますよ。
ナイキやアディダスといった誰もが知っているブランドも売れやすいですね。夫が学生時代に着ていた15年前のTシャツやジャージーが1000円で売れたのには驚きました。
買うのはドレス
メルカリで購入しているのは結婚式のお呼ばれドレスが多いです。年齢的にも出席することが重なるので、いつも同じものを着るのは嫌。毎回新品を購入しているともたないので、メルカリです。1着だけ買って似合わなかったら着るドレスがなくなるリスクもあるので、まとめて4着買ったりします。気に入らなければすぐにメルカリで売ればいいし、気に入ったものも何回か着ればメルカリでまた売る。これを繰り返しています。
日常着では、「フレイアイディー」のコートを3500円で買いました。福袋のバラ売り狙いです。福袋の商品はバラで4、5点売って、「トータルで損をしなければいい」価格設定にしている出品者が多いので、1月という時期もありますが、かなり安く購入できます。
メルカリ歴は2年ちょっとです。もともと買い物好きで、思い切って物を捨てることができない性格なのですが、「誰かが必要としているなら」と自分を納得させることができるので始めました。これまでの売買の取引数は約1000回で、送料などを差し引いた利益は100万ほどです。
最初はクローゼットの中を空っぽにしたいと意気込んでいましたが、買い物好きはそのままで状況は一向に変わりません。むしろ自宅にメルカリに出品する「出荷待ち」の商品を保管する棚が増えてしまったくらいです(笑)。
ここまでメルカリが定着したのって、スマートフォンの買い方が浸透したことも大きいと思います。みんなiPhoneを1年か2年だけ使い、古いものを下取りしてもらって新しいものに乗り換えたり、逆に中古で購入したiPhoneを使ったりしていますよね。それと同じではないでしょうか。
小泉文明メルカリ取締役社長兼COO
コマースとメディアの中間に
なぜメルカリが成長したのかは①所有から利用へ②承認欲求③ゲーム要素――の三つがあります。
大量生産・大量消費時代から循環型経済が台頭し、メルカリ利用者の半数は物を売ることを前提に新品を購入しています。売ることが前提なのは車や不動産では当たり前でしたが、ついにアパレルまで広がり、この流れはもっと加速します。
ユーザーアンケートによると、メルカリを利用する理由の1位は、いわゆるお金ではありません。もったいない精神が強かったり、いくらで売れるかよりも「売れたこと自体が精神的に満たされる」ことが利用につながっています。
メルカリの物の売買で発生するコミュニケーションや交渉にゲーム要素(中毒性)があり、コマースとメディアと中間のような存在になれていると認識しています。アクティブユーザーの月間の平均利用時間は5.3時間(18年1月時点)で、メジャーなSNSと同じくらい使われています。
メルカリには1日100万品が新たに出品され、いつ訪れても新しい〝宝探し〟ができる。また好きなブランドや条件を保存すれば、通知で新しい商品に出合える。そうしたエモーショナルな設計を心掛けています。ユーザー層は20~30代の女性が中心。40代以降はポテンシャルはありますが、まだまだ「面倒くさい」と感じられている部分もあります。そこをテクノロジーで解決しようと頑張っています。
画像認識技術などを使って、商品を撮影すればサイズやブランド、色など商品情報が自動入力され、簡単に出品できるようにしていきます。すでに書籍ではバーコードを読み取るだけで10秒で出品できる仕組みを作って、男性客を増やしました。
メルカリのいろんな〝1番〟
●1番最初に売れたモノ「ドット柄カットソー」
13年7月2日のサービス開始日に売れたのは16品で、その総額は約2万円だった。1枚のカットソーから始まり、今や1日の平均流通総額が10億円を超えるまでに成長した。
●1番高く売れたモノ「ダイヤモンド」(315万円)
300~999万9999円までの商品が出品できるメルカリでは、高額な商品も取引されている。エルメスのバッグやロレックスの時計、メルセデス・ベンツの車などもあるという。
●1番「いいね」されたモノ「仮面ライダーカードを買うために」(1542いいね)
5歳の男の子がママに「仮面ライダーカードを買いたいから、これ売って!」とお願い。公園で集めたどんぐり、拾った鈴、紙粘土で作った団子のセットを300円で出品すると、そのほっこりストーリーがSNSで拡散され、いいねが集まった。
(繊研新聞本紙19年2月14日付)