24年12月、「メゾン・マルジェラ」で14年からアーティスティックディレクターを務めたジョン・ガリアーノ氏が退任を発表しました。同氏が就任してからの10年間で売り上げは5倍、店舗数も倍以上になったといいます。クリエイティブ面での高い評価とともに、ビジネス的にも大きな成功を収めました。メゾン・マルジェラといえば、足袋型のシューズはもはやブランドの代名詞。同ブランドの成長とともに、足袋型シューズは日本でも一般に認知を広げ、世界中で人気を得ています。我が岡山県の倉敷市は足袋の三大産地の一つ。今回は地元の足袋メーカーへの取材から、伝統産業とファッションの関係性について私見を書きたいと思います。
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倉敷地場産業の起源
倉敷市児島では、塩分に強い綿の栽培が始まった後、綿を用いる繊維産業が興り、古くから綿織物を用いた足袋作りが行われていました。1916年にゴム底を貼り付けた地下足袋が登場。大正時代に足袋生産はピークを迎えます。しかし、第1次世界大戦後の恐慌によって学生服にシフトする事業者が続出。その後、児島のデニム産業へも派生していきました。
足袋は、倉敷の地場産業の起源とも言えます。現在も数社の足袋メーカーがスニーカーも含めたフットウェア事業を行っている中で、今回は丸五(倉敷市)ウェルネス推進部の鶴見朋之さんに話を伺いました。
足袋の製造技術を持つ工場が全国で減少しているなか、同社は12年前に国内工場を復活させ、伝統的な足袋の技術を生かした商品開発を行っています。売り上げは作業用品が7割程度を占め、ファッション・ウェルネス分野は1割程度とのことですが、今後の成長分野として注力しているとのこと。レザーの足袋シューズも3年ほど前から受注を始めましたが、需要が高く3カ月待ちの状況。スリッポンタイプやサイドゴアブーツなどバリエーションも増やしています。
価格帯は最高7万円程度で、2万~3万円台の商品もあります。セレクトショップや期間限定店など、感度の高い層向けにも展開していますが、主な顧客層はファッションフリークというよりも一般消費者が多く、足の健康を重視する高齢層からも支持を得ています。
「健康的な機能性を保ちながらもファッション性を両立させることが課題であり、高齢者向けという限定されたイメージを避けつつ、『足袋を当たり前にする』というミッションを掲げています。スポーツ選手の足形測定なども行っており、高齢者の転倒防止など、足の健康に関する専門知識を持った地下足袋メーカーとして商品開発に臨んでいます」(鶴見氏)。
そばにある物の良さ
日本発祥の伝統的な物作りや意匠が海外で見直され、逆輸入的に日本で評価される例は枚挙にいとまがありません。その多くは、ファッションという概念と結びついていることが多いように思います。ウエストを補正するコルセットのように、体に制約を課して表出する美しさもあれば、機能や素材を追求した先に宿る魅力もありますが、その良さを多くの人に伝えるのにファッションはいつの時代も強力に作用してきました。
日本の伝統的な産業や物作り再興の鍵は、まず足元にあるものの良さに自ら気付くこと。それにファッション的な感覚を取り入れ、外国に紹介できるかにあるのだと思います。