小松マテーレ佐々木社長 収益力向上掲げた中計実行へ

2020/08/15 06:30 更新


【パーソン】小松マテーレ社長 佐々木久衛さん 収益力向上掲げた中計実行へ

 6月26日の株主総会後の取締役会で小松マテーレ社長に就任した。2月に同社経営企画室長に就き、4カ月間の準備期間を経ての登板だが、この間コロナ禍に見舞われ、厳しい状況下での社長就任。中期経営計画を策定し、体質強化と将来の発展の礎の構築を目指すことになる。

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繊維は成長産業、伸ばすは海外

 ――社長就任の抱負を。

 やりたいことはいっぱいあり、はやる気持ちもあります。できるだけその気持ちを抑えて、頭の整理を行い、心の準備をしてきました。コロナ禍の真っただ中の3月後半から4月にかけて、中期経営計画をまとめ、20年から3カ年の構想を描きましたが、コロナ感染が深刻となる中で、方向性を少し変更しました。当初は、事業拡大を前面に出したものでしたが、それよりも収益力を付ける方向に軌道修正しました。

 中計の具体的なお話はできませんが、第一に規模の拡大は大きく設定しないが、より付加価値がとれる商品に経営資源を投入する。二つ目は営業利益率のアップを目指すこと。そして三つ目は体質強化、生産性を上げること。以上3点を向こう3年間でしっかりやっていきます。

 ――営業利益率向上とは。

 歴史的に開発投資を手厚くしてきた会社です。将来を作り上げていく上で、これは引き続き頑張らないといけない。ですが、このために研究開発費が販売管理費の中で大きな比重を占めます。販管費、本社費が利益率を圧迫している面もあるので、収益構造全体を見て効率的な運用を図りたい。

 ――生産面では。

 生産強化では出口からのアプローチに取り組んでいます。小松マテーレは3年前に仕掛けて「WS糸」をやってきたんですね。染色から見た糸のあるべき姿、テキスタイル染色加工場が使いやすい糸、染色加工コストが低減できる糸の開発です。これまでこんなことをやる会社はなかったので感銘を受けました。糸屋の視点でみるとそんなことできるんだという驚きですね。

 ――原糸メーカー目線でない糸開発は画期的ですね。

 原糸メーカーは糸売りの意識があります。販売した糸がどう使われてもいいような設計、安全を意識してしまいます。WS糸は、かなり難しい技術が必要で、現状は、パーフェクトではありませんが、特定用途では使えるものになりました。

 開発の背景は汎用品が海外生産に流れていくこと。これを止めるには抜本的なコストダウンが必要です。繊維製品の生産工程で一番コストがかかるのは染色です。これを何とか半分にできないか。それによって再び日本国内生産で勝負できないか、こんなビジネス的発想で開発が始まったそうです。今の特定用途だけでなく、他でも使えないかを模索し、一般的に使えるようにアプライしていく。

 ――生産工場についての考え方は。

 小松マテーレは何でもできるし、設備も色々あります。工場ごとにいろんなことができるように設備されてきた歴史があります。ところが、これがスクラップ・アンド・ビルドではなく、ビルド・アンド・ビルドとなったため、生産現場は複雑になり、やりにくさも生じています。各工場の役割を決めて、もっと効率的な設備体制としたいと思います。

 ――海外事業は。

 日本は人口減少に入っており、国内マーケットはこの規模以上にはならない。一方で、グローバルでは人口は増えており、繊維は成長産業です。新興国での所得は上昇し、ベターゾーンやラグジュアリーの需要は増えています。長い目で見るとチャンスです。海外で作って売るだけでなく、日本からの輸出でグローバルマーケットを取り込むことも重要な課題です。商事機能を持ったファブレスのビジネスモデルで、小松マテーレの技術を生かす絵も描きつつあります。現地の有力パートナーと組んで、物を企画する、技術を提供する海外ビジネスも考えたい。

 ――海外事業会社の社長経験も生きますね。

 社長を経験したことで一番大事だなと思うことは、従業員との信頼関係です。海外は特にそうですね。うまく信頼関係ができると仕事はうまく進みます。逆に従業員から無視されてはうまくいかない。そのためには、社員の考えをしっかり聞くことが大事です。

 当たり前ですが、すべては現場にありです。生産でも営業でも、どんな問題もすべて現場で起きている。これを机上で考えていても確信がもてない。答えは現場にあるのですから。時間さえあれば現場に足を運ぶようにしています。

悩んで、悩んで、突き詰めて、確信へ

 ――小松マテーレの社長就任要請はいつ頃受けたのですか。

 社長への打診は昨年末です。その時は、中山会長とじっくりお話をしてから決めたいとお答えしました。正直、自分にできるのかという気持ちの上での負担もありました。最終的には今年に入ってからお受けすることを決めました。こういう流れなんだろうなと。運命というと大げさですが、合繊テキスタイルの事業に長年携わってきて、産地の企業のみなさんにもお世話になり、いっしょに考えてきました。この流れには逆らえないんだろうと、不安ばっかりでしたが、1月中旬に決断しました。

 ――2月に経営企画室長に就任されました。

 まず確認したのは、技術的な問題はあるのかどうかを現場で聞いてみましたが、これは全くないとのこと。「小松は最後は何とかしてくれる会社だ」、「委託元からみると信頼できる会社だ」ということを複数の人からも聞いて、このことを再認識しました。いい部分は失ってはいけない。周りからこんなに期待されている会社であることを、みんなに伝えたいと思っています。

 ――中山賢一会長、高木泰治副社長と、3代表取締役制となりましたが、役割分担は。

 中山会長がCEO(最高経営責任者)で、私がCOO(最高執行責任者)です。高木副社長には、COOをサポートしていただきます。私は、2月に会社に加わってまだ4カ月です。高木副社長は、長らく生産を担当された染色技術の専門家であり、その後監査役を務め、管理本部も経験され、会社の隅々までわかっておられるので、頼りにしています。

 営業出身の会長、社長と副社長が技術屋で、副社長は染色技術屋として開発から生産まですべてに通じている。社長の私は糸屋ですが、織物生産技術も長く見てきた経験者です。小松マテーレは新しいものに挑戦するDNAが強い。今回の布陣で幅広い技術分野をカバーすることができるようになったと思っています。

 もう一つ、製販の関係がいいのも感じています。これまでの経験で、生産と販売の関係で問題がある会社をたくさん知っていますが、小松マテーレにはこの問題がない。中山大輔専務、松尾千洋常務ら幹部は連携を超えた信頼関係を築いています。これは大きな財産です。

 ――改めて小松マテーレの特徴、強みとは。

 長い歴史の中で培ってきた感性や機能付加での染色加工技術の豊富さは大きな強みです。これを生かさない手はない。実際に衣料用繊維素材では十分生かされています。一方で、資材に目を向けると、一部でその技術が使われていますが、まだ十分ではない。このことを認識して、これに関わる取り組みを強めたいと思います。将来へ向けた先端材料、素材の開発もバランスよく進めることが大切です。

 ――東レ出身の社長ということでの心配はありませんか。

 正直、原糸メーカー出身ということで、懸念されているお客様がいらっしゃるかとも思います。しかし、私は今、完全に小松マテーレの一員です。東レからの委託加工は、大きなビジネスですし、この関係は変える気は一切ありません。ですが、私自身は小松マテーレの社長としての位置づけ、気持ちをしっかりと揺るぎないものとしてもっており、東レを背負っているというような見られ方をなくすように努めます。取引先はすべて重要なパートナーです。等距離外交で様々な取り組みを進めたいと考えています。

 ――座右の銘は。

 宮本武蔵の五輪書の中にある「鍛錬」。真剣勝負の世界では、頭で考えて攻めても意味はありません。日々、鍛錬を重ねて体が自然に動くようにならないといけない。

 かつて海外事業会社を任されたのは厳しいところばかり。立て直しの仕事がほとんどでした。かなり傷んだ会社もあり、机上のシュミレーションでは到底立て直せない。絵が描けない。こんな経験を重ねる中で、やりたくない厳しいこともやりました。悩んで悩んでそれでもその結論しかない。こういう時にはそれが確信に変わるものです。

 武蔵の「鍛錬」とは少し意味が違うかもしれませんが、何度も悩んでやっぱりこれしかないという結論がすべてなんだ。突き詰めていくという姿勢は共通のものがあると思っています。

 ささき・ひさえ 岩手県生まれ、77年東京工業大学大学院工学部卒業後、東レに入社。87年インドネシアのイースタンテックス取締役織布部長、94年同ISTEM、ACTEM取締役工場長、04年ISTEM、ACTEM社長、07年マレーシアペンファブリック副社長、10年東レ取締役生産本部高次加工技術・生産担当、14年同常任理事、20年1月東レ退職、2月小松マテーレ経営企画室長、6月から現職。67歳。

■小松マテーレ

 1943年設立。合繊長繊維テキスタイルの北陸産地を代表する染色加工メーカー。衣料用ファブリック、資材用ファブリックの染色加工、製品染め衣料などの製品事業、炭素繊維複合材料の耐震補強材や染色廃棄物を使った発泡セラミックなどの先端材料の生産、販売を手掛ける。委託加工が主体だった産地で、70年代にいち早く自社企画、自社生産、自社販売のいわゆる自販事業に着手。03年にはパリの国際生地見本市プルミエール・ヴィジョンに初出展。合繊メーカーがテキスタイル事業からの縮小、撤退を進める中、日本を代表するファッションテキスタイルメーカーとして認知されている。20年3月には抗ウイルスマスクインナーを、5月には同マスクを発売、医療資材分野でも注目されている。

医療分野などにも注力。抗ウイルスマスクなどの機能を持つ「ダントツマスクール」

《記者メモ》

 初の原糸メーカー出身の社長だ。染色技術を基盤とした「化学メーカー」を標榜(ひょうぼう)する同社にとって打ってつけのトップを迎えた。今後、得意とするファッション、スポーツなどの衣料用素材だけでなく、産業資材や医療、さらに炭素繊維複合材料などの先端材料へとウイングを広げる上で佐々木社長の知見が生きる。

 東レでの役職時、またインドネシアの子会社での社長時代も含め何度も取材させてもらったが、真面目で謙虚な姿勢は、一貫して変わらない。

 意思決定が早く、臨機応変、トップダウンで、スピード感を持って動ける会社だ。一方で、じっくりと腰を据えて、中長期をにらんだ戦略を組み立て、部署ごとでそれぞれの役割を発揮し、成果を積み上げ、ゴールを目指すという面では弱点もあった。

 東レという大企業で取締役としてマネジメントに関わり、その子会社の社長として、総合的な判断の責任を負ってきた経験は大きな財産だ。

(藤浦修一)

(繊研新聞本紙20年7月10日付)

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