トレンド素材 ニット◆産地

2015/09/23 06:12 更新


《トレンド素材フォーカス》

1%からの逆襲

日本を代表するニット産地=五泉


 国内最大のニット産地・新潟。中でも、生産量の過半を占める五泉産地は「ニッターだけでなく、原料商や商社、プリーツや刺繍などの加工場、編み立てや裁断の専門業者が残り、五泉市に集積している」(髙橋雅文五泉ニット工業協同組合理事長、高橋ニット社長)ため、複雑な商品も一貫して生産できる国内有数の繊維産地だ。ニットでの物作りが高度化している今シーズン、厳しい環境を生き抜いてきた産地の力が見直されている。

コンピューター制御の横編み機、丸編み機や特殊成形編み機などが揃い、多様な編みや柄表現が可能(ウメダニット)
コンピューター制御の横編み機、丸編み機や特殊成形編み機などが揃い、多様な編みや柄表現が可能(ウメダニット)

高付加価値品で存在感

 日本に流通するニットは現在、99%が輸入品だ。国内の生産量はこの10年で3分の1に縮小した。五泉産地も例外ではない。ただし、生産高は年々拡大している。14年度の生産量は229万枚(前年度比3・4%減)、生産高は115億円(5・5%増)だった。「受注のほとんどがドッキング」「立体縫製が必要なものが求められる」というように、高付加価値品の生産が同産地に集中していることが理由の一つといえそうだ。

型紙に沿って編み地を裁断。豊富な経験や技術力がものをいう工程(ウメダニット)
型紙に沿って編み地を裁断。豊富な経験や技術力がものをいう工程(ウメダニット)

 百貨店アパレル、セレクトショップを主力販路にニット衣料を供給する日鉄住金物産のレディス衣料第五部は、五泉にある関連会社のエスビーニットを含めても、海外生産が約8割を占める。大半が中国だ。海外比率はこの数年拡大し続けてきたが、ここにきて、キャリア、ミセスで国内比率が高まっているという。理由は円安だけではない。「縫製や加工を駆使した高度なニット衣料の引き合いが増え」ており、海外工場での対応が難しくなっていることも大きい。「縫製力は日本が格段に優れている」(商社)と信頼は厚い。


熟練の縫製技術

 五泉は、古くからミセスアパレル向けを主力とし、付加価値の高いニット衣料で存在感を発揮してきた。高橋ニットは、ニットと布帛、レザーなど異素材同士の縫製を得意としてきた会社。ジャケットなどシルエットをきれいに出したいアイテムに必要な熟練の技を持った従業員や外注先を多数抱える。

 工程数の増加、複雑化から、「工程管理も重要になっている」と指摘する。ニット衣料の生産は、編み立て、裁断、縫製、リンキング、仕上げが基本の流れ。最近は素材を切り替えたり、カットしたパーツごとに縫製や刺繍、リンキングなど流れが煩雑になっており、日本人気質に根ざした緻密(ちみつ)な工程の組み立てや、徹底した管理体制も海外に打ち勝つ大きな強みになっている。


企画も自ら

 企画提案力もカギになっている。五泉では、自社ブランドを立ち上げたり、ODM(相手先ブランドによる設計・生産)を拡大するなど、企画提案力を持ち合わせたニッターが多い。「企画提案力と生産背景を持つニッターはあと数年でもっと評価されてくるのでは」と話すのは、ウメダニット。

 OEM(相手先ブランドによる生産)、ODMが定着し、ニット専業デザイナーがいないアパレルは珍しくない。アパレルの意図をくみ取り、ファーストサンプルから具現化できるのは、日本ならでは。ウメダニットでは、各部署から数人ずつ集めたチームを設け、新しい編み地やステッチの開発に取り組んでいる。

異素材縫製は五泉の得意分野。シルエットの表現が重視される立体縫製は職人技の世界(ウメダニット)
異素材縫製は五泉の得意分野。シルエットの表現が重視される立体縫製は職人技の世界(ウメダニット)

豊かな水資源

 強縮加工も、海外で難しいといわれる工程の一つ。最大の理由は、水にある。鉄分など水に含まれる不純物が加工の質や安定を妨げる原因になるという。不純物が少ない良質な地下水源に恵まれる五泉は、加工に適した環境といえる。加工時間が長くかかる分、熟練度も求められる。

 薬剤に編み地を浸す時間、洗濯機を回転させるスピードなど、出したい風合いに応じて細かな調整が必要なためだ。「試行錯誤の繰り返しで積み重ねてきたノウハウ、薬剤や設備の工夫があって初めてできる加工」(マルヤ整理工場)という。マルヤ整理工場は、前身のクリーニング業で培ってきた洗いに対する見識を武器に、独自に機械を改造し、高い品質を維持しながら、生産効率を高めている。

(繊研 2015/07/22 日付 19282 号 4 面)



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