音楽家・半野喜弘の初監督作品(宮沢香奈)

2016/12/12 12:28 更新


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2000年の衝撃作、天童荒太原作『永遠の仔』のドラマは今でも鮮明に覚えている。救いようのない極限状態のシーンでバックに流れる音楽は無情なまでに悲しく、そして美しかった。そのテロップで見たのが”半野喜弘”という1人の音楽家だった。

パリを活動拠点としながら、ジャ・ジャンクーやホウ・シャオシェン、辻仁成、行定勲などアジアを代表する監督たちの作品に携わり、これまでに手掛けた映画音楽は数知れず。RADIQ名義でクラブミュージックのアーティストとしても長いキャリアを持つ。

そんな半野氏からベルリンへギグに訪れた際に聞いたのが、『雨にゆれる女』という映画作品だった。それは、音楽ではない彼自身がメガホンを取った初の監督作品である。

 


 

私はドキドキしながらベルリンの自宅で1人で鑑賞した。

究極に悲しい過去を持ちながら別の人間として生きる人の心情とは一体どんなものなのだろうか?ただ淡々と過ぎてゆく毎日は安堵なのか、それとも苦痛でしかないのか、そこから解き放たれる日は来るのか。青木崇高さん演じる”飯田健次”という孤独な犯罪者の気持ちをずっと考えていた。

青木さんの表情だけで、とてつもなく深い闇と抑えきれない癇癪を抱えてる人間を演じている姿はゾッとするほどリアルで圧巻。”ああ、こうゆう人間って実際にいるよな”と警戒心と悲しさが同時に溢れてくる。大野いとさん演じる理美も透明感があるのに儚げで影のある雰囲気も良かった。今後が楽しみな女優さんの1人。

そして、オープニングから一気に引き込まれていく映像美がとにかく素晴らしい。強いコントラストが影になり、主人公の深い闇や苦悩が刻まれた顔や薄暗い背景全体からじわじわと伝わってくる。

 



『雨にゆれる女』は、日本が舞台となっており、当然ながら役者もセリフも日本。でも、アジアのどこか知らない街のようにも思えて、どことなくヨーロッパの匂いもする不思議な風情があった。セリフの少ない描写の中でいろんな想像を掻き立てられながら、あっという間にエンドロールを迎えた。

長年に渡り映画音楽に携わり、巨匠たちの作品に触れてきた真の映画好きである半野さんだからこそ作ることが出来た作品だと思った。以前から音楽のファンであり、仕事を一緒にさせて頂いたこともある半野さんの渾身の作品をこういった形で観させてもらうことが出来て、とても光栄だった。主張せず映像に溶け込みながら絶対的な存在価値を放っている音楽にも是非とも注目して欲しい。

あとから、第29回東京国際映画祭「アジアの未来部門」に出品が決定したことを知る。まさに”アジアの未来”であり、次回作へと期待が膨らむばかりである。パリを舞台にした映画も是非観てみたい。

 





宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。

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