羽織。美しいものが世界をつなぐ(宮沢香奈)

2015/08/10 15:22 更新


 
田中聡子さん

 

昔からファッションにおけるジャポニズムはずっとあるもので、毎シーズンどこかしらのメゾンで見ることが出来る。しかし、ここ数年でまた新たなムーブメントが起きているのでは?と感じる。Thom Browneの2016 SSコレクションにも見られるように、最近はメンズにもその傾向が表れていておもしろい。

ジャポニズムに代表されるのは、やはり着物であるが、最近の流行は主に”羽織”のようだ。

トレンドに捕われない独自のファッションシーンを持つベルリンにおいても例外ではない。ヴィンテージショップやPOP UP SHOPにはセンスの良いヴィンテージ羽織が並び、ファッションウィーク中には若い男女のグループがかわいらしく着こなしている姿を目にした。

 

個人的にもとても興味があったので、日本でヴィンテージ羽織仕入れ、ベルリンで販売している友人の田中聡子さんに取材をさせてもらった。

彼女は日本で外資系のファストファッションブランドでストアマネージャーを長年務めた後、ベルリンへ移住。ビザ更新のため帰国した際に京都で出会った年代物の着物に感銘を受けてビジネスを始めたのだと言う。

 



  

「前職で毎シーズン必ずコレクションはチェックしていたからトレンドの傾向は常に頭にインプットされてて、古い着物の柄を見た時に、”これはMARNIで見た”とか”ヴィトンで見た”って言う発見があって、何十年も前の物なのにすごく今だったんですよね。今のメゾンに全然劣らないカッコ良さを感じました。それで、ヨーロッパでもイケる!っていう確信のもと今に至ります」

「羽織専門にしたのは、単純に着物は専門知識や着付けの技術、帯も必要になってくる、そうなるとちょっと勉強しただけでは難しいんですよね。短期間の一時帰国で学ぼうとしても無理があるなと。でも羽織だったら、ジャケットとして自分が長年携わってきたトレンド分析とファストファッション的なアプローチでビジネスに出来ると思ったんです」

「あと、パリとかロンドンにはもう既にヴィンテージ着物を扱っているところがありましたが、私が始めた頃はベルリンには他にやってる人がいなかったんですよね。80年代や90年代セカンドハンドが主流なベルリンにおいて、羽織はとてもユニークに映るとも思いました」

「着物って美しいだけじゃなくて柄に意味があったり、表地と裏地の組み合わせに遊び心があったり、羽織紐の色との組み合わせの妙とか、そこも魅力だと思っています。知れば知るほど面白さが増すんですよね。その辺りはカルチャー好きが集まるベルリンでも受ける要素でもあるなと思います」

 田中さんの販売ツールは、マーケットやイベント出店が主になっており、多数のマーケットから出店オファーが来ている人気っぷり。不定期でセレクトショップでも取り扱っている。

日本の伝統品という扱い方ではなく、ファッションアイテムの一つとして羽織の着こなし方を提案し、マーケット出店においても感度の高い人たちが集まるデザインマーケットを選んでいる結果、徐々に広がっていったと言う。

 



  

 「ベルリンへ移住して1年目ぐらいの時に、酔っぱらったドイツ人から日本人をバカにするような発言をされてショックを受けたことがあったんです。その時は原発や政治などのポリティカルな部分で突っ込まれたんですけど、語学力もなかったし、突っ込まれたトピックスについて本当のところはわからない、自分なりの意見も持っていない状態で言い返せなかったんですよね。それがすごく恥ずかしくて、悔しかったんです」

「それまで日本ってプラスのイメージを持たれていると思っていたし、親日家の方に出会う事も多かったから、自分が日本人であることにどこか誇りというか安心感みたいなものを持っていたと思うんです。でも3.11以降、日本のイメージも変わってきているようで、自分自身も何となく不安に感じるようになったんです。日本人である事で居心地悪くなる日が来ないと良いんだけど。。と言うように漠然と感じるようになっていました。

「そんな時に出会ったのが”Kimono”だったんです。私なりに日本には洗練されていて素晴らしい物があるってことを伝えたいって強く思いました。草の根日本イメージアップキャンペーンですよ!美しい物は世界共通で魅力的じゃないですか?だから、たとえ言葉がうまく話せなくてもKimonoっていう美しくてユニークなものがコミュニケーションツールとなって、自分の武器になると思ったんです」

「ファッションには関わっていきたかったし。Kimonoのおかげで色んな人に出会えるようになったし顔も覚えてもらえるようになったんです。だから、今ここで自分らしくしていられるのは着物との出会いのおかげなんですよね」 

 

 

”海外在住”というのは、カッコイイとか羨ましいと言った誤解をされることが多い。もちろん、日本にいては到底経験出来ない素晴らしいことは沢山ある。

でも、当たり前のことであるが、日本から一歩外に出れば、私たちは外国人なのだ。そして、今の日本の現状は中にいるより、外にいる方が鋭く感じ取れてしまう。そこで受ける差別、偏見の目、文化の違い、ストレートな表現に戸惑い、傷付くことも多いのだ。

世界的なファッショントレンドとなっている日本の美しい羽織の背景にはこういった様々なストーリーもある。今後も彼女の活動に注目していくと共に、海外在住日本人として一緒にがんばっていきたい。

(*Kimono…海外で取り扱い場合の表記、kimonoもしくはキモノ)

official Instagram: Kimonomono_Berlin



宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



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